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第21話◇桃川春季⑯
「初めまして、蓮の親友の松井翔吾です」
「桃川春季です。松井さん、よろしくお願いします」
「翔吾、言った通りだろ? 春季は可愛いんだ」
「どちらかというと、美人系じゃないか?」
「オレ、男なんだけど……」
あの電話があってから、すぐに翔吾と会う日が決まった。週の半ば、翔吾が予約してくれた和食のお店の個室に、春季たち三人はいた。春季は自分の容姿について言われた言葉に、納得できなかった。
「あ、拗ねた顔は可愛いな」
「ダメだ。春季は俺のだ」
「ははっ、ベタ惚れだな!」
翔吾の前では、普段より気を抜いた蓮を見ることができたのは、春季も来て良かったと思った。仕事の時のキリリとした表情でも、春季の前で見せる甘い顔でもない新しい一面だ。
翔吾は、春季が話に入れるように気遣ってくれる人で、蓮には良い親友がいるのだなと嬉しくなった。
「春季くん、蓮のことよろしくな~」
「うん。翔吾くんも、彼女さんとお幸せに」
「翔吾は飲みすぎだ。ほら、頭ぶつけないように気をつけろ。またな」
お店を出てタクシーに翔吾を乗せるときには、同じ歳だからと名前で呼び合うようになっていた。翔吾は、このまま彼女の部屋に行くことになっているらしい。
蓮と春季は、この店からは春季のマンションが近いので、そちらに向かう。
「春季……今夜、抱きたい」
「ちょっ! こんなところで言わないでよ」
誰が通るかわからない夜道で、蓮が春季の耳元で囁いた。思わず、ゾクリと感じてしまった春季は慌ててしまう。
「なあ、ダメか?」
「……いいよ」
春季は周囲に誰もいないことを確認して、照れながら頷くと、蓮に手を取られ恋人繋ぎをされた。ほんの少し力を込めて握られて、胸がキュンとときめいた。振り払うなんて選択は、サラサラない。春季からもそっと握り返すと、嬉しそうに笑顔をみせる蓮に愛しさが募る。
春季の部屋にもたまに泊まりに来る蓮のものは、一式が揃っている。だから明日は、今日と同じスーツで出勤することにはならない。平日だが、今夜は春季だって蓮が欲しいのだ。
春季のマンションに着くと、まずは蓮にミネラルウォーターを渡した。なんだかんだ言って、蓮も翔吾と同じくらい飲んでいる。春季はセーブしていたので大丈夫だが、ゴクゴク飲んでいる蓮をみると結構酔っているのかもしれない。
「シャワーだけにしておきなよ」
「ありがとう、春季」
脱衣所に向かった蓮を見送って、春季もミネラルウォーターを飲んだ。翔吾に蓮との関係を祝福されて、安堵と幸せを噛み締めた。
大学時代の話も聞けたのは楽しかった。春季が思った通りモテた蓮だったが、二人ほど付き合ったものの、長く続かず、それ以降はフリーだったらしい。
翔吾が杉本と付き合う時に、蓮が「翔吾には違うタイプが合う」と言ったのを押し切って付き合ったらしい。結果は散々だったと翔吾は笑っていた。今の彼女のことは「大切にしろ」と言ってくれると嬉しそうにしていた。
「蓮と春季くんを見ているとしっくりくる」と言ってくれたのも春季は嬉しかった。
ぼんやりと思い返していると、蓮がシャワーから戻ってきた。
春季は入れ違いにシャワーを浴びて出ると、いつものようにドライヤーを持って待っている蓮がいた。どうしてもこれは譲れないらしい。苦笑して髪を乾かして貰う。
その後は、蓮に慈しむように優しく愛された。快楽より心が満たされるようなセックスを一度して、ベッドに横になると、珍しく蓮が先に眠った。
やはり結構酔っていたのかもしれない。蓮の無防備なのに、カッコ良さを損なわない寝顔を、春季は飽きることなく見つめた。蓮が無意識に春季を抱き込む仕草に身を委ねて、幸せな眠りへとついたのだった。
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