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第23話◇霧島蓮⑥
蓮にとって、今日は最高に気分の良い一日だった。
───いま、この瞬間までは。
「蓮、待ってたのよ。お腹すいたわ、一緒に食べに行きましょう」
「杉本、どうしてここにいる。なんで一緒に行かないと行けないんだ? 勝手にひとりで食いに行け」
この前キッパリと最愛の人がいると言ったはずなのに、無かったことにされたのかと、蓮の機嫌は急降下した。
会社の最寄り駅で、こんなところを知り合いに見られたら面倒なことになる。杉本を振り切って、春季と一緒に予約しているレストランに向かいたかった。
「この前、飲み会来なかったじゃない。ねぇ、いいでしょ───」
「ねぇ、君。ちゃんと蓮の話を聞いてる?」
杉本が蓮の腕に触れようとしたとき、春季が間に入って杉本に静かな声で遮った。蓮はゾクリと背筋が凍った。春季が静かに怒っている。
「な、何よ。急に!」
杉本が睨みつけると、春季は艶やかに笑ってみせた。その表情を見て杉本は見惚れたようだった。
「前に会った時に蓮は『最愛の人がいる』って言っていたでしょう? 忘れたの?」
「そ、それは……あなたには関係ないでしょう」
春季の笑顔の圧に、杉本が押されている。
「関係あるよ」
春季が、するりと蓮の腕に絡みつくと、肩に寄りかかる。蓮は春季の行動に驚いた。プライベートでは少し自信なさげな春季が、堂々と蓮は自分のものだと主張しているのだ。
「ど、どういうこと?」
「君、空気読めないね。これならどう?」
そう言って、春季が蓮の頬に唇を寄せてくる。素早く察知した蓮は顔を傾けると、春季の唇を吸った。
「んん!」
驚いた春季が蓮から離れようとするのを、後頭部を押さえて離れられなくする。周囲から悲鳴やざわめきが聞こえるが、知ったことではない。春季がここまでしてくれたことが、蓮は何より嬉しかった。
「う、嘘でしょ……」
「待ち伏せまでしやがって、いい加減失せろ。二度と俺に近づくな。」
「オレの蓮に手を出そうなんて思わないでね?」
目元を赤く染めながら蓮の腕の中で春季がそう言うと、杉本は顔を真っ赤にして悔しそうに走り去った。
「れ、れん……ここから離れよう。恥ずかしい」
「そうだな。飯食いに行くか」
そう言うと、注目されているその場から二人は足早に立ち去り、予約しているレストランに向かった。
「絶対、会社の人もいたよね。ごめん、蓮……」
「なんで謝る必要があるんだ? 俺はものすごく嬉しかった」
料理を待っているあいだ、羞恥と自分の行動に落ち込んでいる春季に、蓮は上機嫌で答える。するとホッとしたような顔をした春季が、はにかむように微笑んだ。可愛い。
蓮は内心、今夜は手加減できないな、なんて思う。春季が「オレの蓮」と言ってくれたのだ。本当はあのままマンションに春季を連れて帰って、朝まで抱き潰したかった。だが、ここのレストランを、春季が楽しみにしていたのを思い出して、蓮は思いとどまったのだ。
食事を終えて蓮のマンションに戻ると、扉が閉じると同時に蓮は春季に貪るようなキスをした。両手は妖しく身体のラインを辿る。
「春季……春季」
「んんっ! 蓮」
お互いの身体をまさぐり合い、その場で着衣のまま繋がろうと、春季のスラックスをパンツごと引き下ろす。すでに兆していた春季のちんこを扱いてやりながら、蓮は自分の張り詰めたペニスを解放する。片手と歯でゴムを取り出し、装着した。パウチのローションを使い春季のアナルに塗り込むと、まだキツさの残る後孔に押し入った。
「ああっ!」
春季の苦しさだけではない、蓮を迎え入れた喜びの声を聞き、満足気に息を吐いた。ようやく春季と繋がれた。馴染むまでワイシャツの上からちくびを爪でカリカリと刺激しながら、耳朶を食む。
「ん、ん、んん♡」
春季が声を抑えようと唇を噛んでいるのを見て、蓮はペロペロとその上から舐めてやる。
「キスしよう。声、抑えたいんだろ?」
「そとにっ♡ きこえちゃう♡」
「ほら……」
「ふぅん♡」
春季の上顎をなぞり、舌を絡めて唾液を啜る。緩やかに動かしていた腰を徐々に大きく振りはじめた。蓮が抜けていこうとすると、キュッと締まって、いかないで欲しいと引きとめる健気な春季のアナル。
蓮は愛しさで、グズグズに甘やかしてやりたい気持ちと、快楽で堕として、蓮なしでは生きていられなくしてしまいたい凶暴な気持ちに駆られていた。そして気づく。囚われているのは、蓮の方なのだということに。
「愛してる……ずっとそばにいてくれ、春季」
「オレ、もっ……あいしてる。ん───っ♡」
「───ッ!」
深く繋がった二人は同時に達したのだった。
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