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第二部 第十九話 はじめてのピクニック
「すう……」
「凛、りーん」
気持ち良さそうに寝ている凛を、忍びないながらも起こす。
「ん……んん……? ユウちゃん、おはよ……」
「はよ。いい天気だぞ、ピクニック日和だ」
「……ピクニック!」
その言葉を聞いて、凛ががばりと起き上がった。
「まだ場所たくさんあるな、よかった」
「早く来てよかったね」
凛の家から車で二十分の大きな公園は、まばらに人がいる程度だった。凛はこの日のために、組から車を借りて運転してくれた。運転している姿が大人っぽくてかっこいいと言うと、惚れ直してくれた? と楽しげに笑ってきた。
「ここら辺にしようか。木の陰あるし、ちょうどいいと思う」
「はーい」
凛は慣れた手つきでレジャーシートを敷いて用意をする。
「凛、経験者?」
「組に入りたての頃は、花見の準備でよくやったんだー」
彼のお陰で、あっという間に凛と悠の城ができあがった。そこにごろんと寝っ転がって、木陰の隙間からさす陽の光を浴びる。
「気持ちいー……」
「ねえユウちゃん、ピクニックってなにすんの?」
「んー? こうやってゴロゴロしたり、弁当食べたり、だな」
「弁当!?」
凛の目がきらきらと輝く。さっき朝食を食べたばかりなのに、可愛らしいものだ。
「まだ食うには早いぞ?」
「ええっ!? でも、でもさあ」
凛はだだをこねる子どものようにねえねえ、と悠の服の裾を引っ張る。
「ちょっとだけも、だめ?」
「今食べたら後で腹減るし、お昼の楽しみなくっちゃうから、な?」
「うー……」
「ちなみにラインナップはおにぎりと卵焼きと唐揚げに、ほうれん草のバター炒め」
「ユウちゃんひどいよー! それ聞いたら食いたくなるじゃん!」
凛は鬼畜だあ、と悠の頬をつつく。普段の凛の部下の扱いの方がよっぽど鬼畜だと思うのだが。
「腹減ってから食べた方がうまいから、もう少しお預けな? 弁当は逃げないから」
「いじわるー!」
彼は怒って悠の頬をふにふにとつまむ。悠はどこまでも悠の食事を求めてくれるのが嬉しくて、頬を緩ませて笑った。
そして、数時間後。目の前に広げた弁当に、凛は目を輝かせていた。
「すげー!」
「はい、箸」
「ありがとっ! いただきまーす!」
凛は待ちきれないという風にからあげを箸でつまんでひと口で食べた。
「んん! んまいっ!」
「凛、ゆっくりな? 急いで食べたら腹痛くなっちゃうぞ」
悠は水筒に入れてきた冷えた麦茶を渡す。
「んん……ぷはーっ! ねえ、めっちゃうまいんだけどこのからあげ!」
「前日から仕込んでたから、味染みてるんだと思う」
「おにぎりも、んま……ツナマヨコーンだあ……」
「凛が好きだから、全部ツナマヨコーンにしたんだ」
凛は大きな口を開けて弁当の全てを悠と一緒に食べきった。
「はー……うまかったあ……」
「よかった、凛が喜んでくれて」
「でもさ、こんなにいっぱいいつ作ったの? 昨日の夕方?」
「いや、朝に」
「…………ユウちゃんちょっと待って、何時に起きたの?」
「四時半だけど……」
答えた瞬間、凛は悠に膝枕をして横に寝かせた。
「寝るの! 今すぐ寝てっ!」
「ね、寝ろって言われてすぐ寝れないだろ!」
「昨日はおれと同じ時間に寝たじゃん! 睡眠時間死ぬほど短いじゃん、もー!」
凛は悠の頭を撫でて眠りへと誘う。腹がくちくなったのと彼の体温、それと睡眠不足で目蓋が重たくなってくる。
「ふぁ……ヤバい、ほんとに眠く……」
「いーの。こんなに天気いいんだし、ゆっくりお昼寝して? ユウちゃんが寝てる間、おれが守ってあげる」
「寝てなくても、守ってくれてるのに……」
悠はくすりと笑って目を閉じる。さわさわと木々を揺らす風がほどよく身体を気持ちよくさせてくれて、赤い鬼の膝の上で夢の中へと落ちていった。
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