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当たり前に俺の中には夏芽がいて、夏芽と一緒に歳とってくもんだと思ってたけど夏芽の中では違うのかな。 なに結婚って。 今の日本じゃ同性婚認められてねーよなってそういう話じゃなさそうで。 ヤキモチの話からなんで急に結婚?跡継ぎ?の話になったんだっけ。 「待ってよ、全然訳わかんねぇって。  お前何が言いたいの?」 「…俺とずっと一緒にいていいのかって聞いてんの。  ここの店、お前の代で潰すわけにいかないじゃん」 夏芽が何を言いたいか大体分かった。 俺に好意をもってる子が出てきたことで、いつか俺が夏芽から離れてくんじゃないかって思ってるんだ。 それをこんな回りくどい聞き方をしてんだな。 俺の事さんざん馬鹿って言うけど、俺からしたら同じくらいお前も馬鹿だよ。 横に座る夏芽の胸に思いきり頭突きをする。 「変なこと考えんじゃねーよ。腹立つなぁ。」 「いってぇな、何すんだよ!」 「俺はこの先もずっと夏芽といる予定なんだけど!  お前は違うの?」 腹が立ってつい大きな声が出る。 好きだよって言ったじゃん。分かれよ。どんだけ好きだと思ってんだよ。 お前がいないと寝れねぇ、毎日睡眠不足で毎日カフェインとお友達なのに。 夏芽は胸をさすりながら俺を睨んだあと、すぐ目をそらした。 「思いっきり頭突きすんなよ、石頭のくせに。」 「話すり替えんな、こっち見ろよ。  ちゃんと口に出して言えって。お前だって俺と一緒だろ。」 むかつく。肝心なことはなんも言わねぇ。 夏芽の上に跨って頬を掴んで無理やりこっちを向かせると、たまに見る夏芽の不安そうな顔。 本当にたまにしか見せないけど、もう2年付き合ってんだ。その顔が分かんないわけないだろ。 むかつくけど好きなんだから仕方ない。 最初は夏芽からだったはずなのに、いつの間にか俺もこんなに夏芽のことが好き。 「どけって。」 夏芽が怖い顔で睨む。 でもここで怯んで負けたらきっと俺は将来こいつと一緒にいられない。 「やだ。何が不安なんだよ。言えよ。  俺どこも行かないよ?お前がいればそれでいいって。  お前はなにがほしいの?」 夏芽は胸に顔を埋めて腰に手を回してきて大きなため息をついた。 俺も夏芽の頭に抱きついて言葉を待つと、小さく呟く。 「…女ってだけで国から許されてさ。  名前とか戸籍とか、同じもん貰えんじゃん。  そんなんずりーじゃん。俺もお前と同じのほしい」 「なにお前、俺と結婚したいの?」 ん、と小さく呟く夏芽。 何こいつ、こんなに可愛いとこあんの? 付き合って2年、かっこいいって思うことは何度もあったけど、可愛いなんて思ったことなんてない。 今みたいな不安そうな顔だって数えるくらいしか見た事なくて、そんなときでもこいつはかっこよくて、こんな子供みたいなことは言わなかったのに。 愛しい。その一言に尽きると思う。 夏芽にキスをして顔を見るとまだまだ弱気な顔。 普段かっこよくしてる夏芽のこんな顔が見れるのは俺だけで、それだけでちょっと優越感に浸る。 「次の休みかぶったら指輪買いに行こ?  そんで一緒住む家も探しいこーな。」 「……ばかじゃねぇの。」 顔を背けて抱きついてくる夏芽が可愛い。 「あは、いらないって言わねーんだ?」 「もうお前ほんとうるさい。上から降りろよ、重い。」 夏芽は俺の事を軽々と抱き上げて横におろすと、立ち上がって時計を見た。 時間はもう21時を過ぎたところ。 「あぁー、今日もコンビニかぁ。」 そう落胆の声をあげると、夏目がぽん、 と頭を叩く。 「今日は我慢な。  一緒住んだら作って待っててやるよ。」 一緒住む気満々じゃん。 そう思ったけど余計なことは言わない。 あーぁ。早くその日が来ないかなぁ。 *** とは言ったものの、休みがかぶんないんですけど! そりゃそうだよ、俺は平日。あいつは土日。 そりゃかぶんねーよ。 明日だって休みなのにかぶんねぇし、会えねぇし。 あの日からかれこれ2週間。お互い忙しくて全然会えない。 夏芽も休憩ほぼなしで働いてるみたいだし。 あー、会いたいなぁ。 毎日連絡はとってるけどさびしい。 自分で自分を慰めたってつまんない。 寝落ちしたって一緒に寝てるわけじゃないし、淋しいもんは淋しい。 店長室で納品書を眺めながら2週間前のことを思い出して、なんとも言えない気持ちになる。 「あぁもう野菜たっけぇなぁ!」 野菜が高いのも、納品が遅れたのも、俺が淋しいのもぜんぶ夏芽のせい! ぐしゃぐしゃと納品書を丸めて、大人しくまた広げる。 勢いのまま捨てたら後々困るのは自分だし。 俺だって夏芽と結婚して気ままに主夫とかしてぇよ。 裸エプロンとかして迎えたらどんな顔すんのかな、とか色々想像する。 やだ、お鍋吹いちゃう…とか? それはさすがにAVとか漫画の世界だけか。 経験の浅さがこういうとこで露呈する。 誰に聞かれる訳でもない妄想だし、別にいいか。 もやもやした気持ちを抱えながら店を出ると携帯がなる。 しらない番号からの着信。 「はい、須藤です。」 『スーパースドウの店長、須藤夏希さんでよろしいでしょうか。』 「…?そう、ですけど…申し訳ございません。  どなたでしょうか?」 誰だこいつ。 客とか取引先だと困るから適当に対応もできない。 しばらく相手は黙ったままで、こっちから あの、 と口を開くと相手も話しはじめた。 『ばーか、俺だよ。なーつーめー。  なんで声で気づかねぇんだよ。』 「はぁ?夏芽ぇ?なんで番号ちげーんだよ。」 いやー、と話しはじめた夏芽の話を要約するに、どうやら車の整備中に胸ポケットからオイルに落としたらしい。夏芽らしくない凡ミス。 「なんで胸ポケットなんかいれてたんだよ。  いつもケツじゃなかったっけ。」 「…電話鳴ってすぐ気付けなかったら嫌だろ。」 あぁ、仕事の?と聞くと割とでかい声で お前からの! と返される。 でかい声に一瞬面食らったけど、今めちゃくちゃ可愛いこと言ったな。 なんだよ、淋しいの俺だけじゃないじゃん。 「夏芽〜、今から会お。淋しい。」 『お前今どこなの?』 「んー、もーそろ家つくとこー」 『俺もうお前の家の前。早く帰ってこいよ。  ずっと待ってんだから。』 なんだそれ。なんか今日甘々だな。 待ってるなんて言われたら急ぐしかない。 スラックスと革靴じゃ走りにくいけど、早く帰りたい。 時間的にはあと五分で家に着くけど、今すぐタクシーでも拾いたい気分だ。

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