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元服2

 その後も2人は夢通いをした。それは毎晩続けられた。 「博嗣さま。明日元服いたします」 「そうか。とうとう明日か。お前は立派になる。お前のままで、強くなれ」  震える指先で博嗣の頬に触れた。 「私は、あなたを忘れてしまうでしょうか」 「忘れても構わない。けれど、もし心が寂しくなったら風の音に耳をすませて。私はそこにいる」 「博嗣さま……」  博嗣の名を呼んで、瞳を閉じた。 「元服など、したくない。大人になんてなりたくない。子供のままここにいて、博嗣さまと一緒にいたい」 「そんなことを言うものじゃない。お前が望むなら、こうやって夢通うことができる。決して会えなくなるわけではない」 「でも、それは夢の中でのこと。現であなたに会うことはできない」 「霞若……」  元服が一日、日一日と近づくごとに霞若の表情は暗くなっていった。夢で会えるとはいえ、山にいた頃のように現で会うことは叶わなくなる。博嗣の吹く笛の音を聞くこともできない。それがどれだけ辛いか。 「それなら、笛を私だと思ってくれ」 「そうですね。この笛はあなたから貰ったもの」 「そうだ。そして私はお前から貰った竹笛がある。私はこの竹笛をお前だと思うようにしているよ」 「それでも寂しいと思ってしまうのは、わがままですか?」 「お前と私では生きる世界が違う。お前は人の世を生き、私は人でない鬼の世界を生きる」 「……」  博嗣が人でないことは出会った日に聞いた。けれど一緒にいて、鬼だと思うことなど1度もなかった。触れる手は温かく、そして優しい。そんな人が人でないというのなら、世の中、人である人なんてどれくらいいると言うのだろう。 「あなたと一緒にいることは叶わないのですか? 人の世を捨ててもあなたと一緒にいることはできませんか? あなたと一緒にいられるのなら、人の世を捨てることだってできる」 「……霞若。そのようなことを言うでない。人と鬼は相容れぬもの。仮にお前が人の世を捨てたとしても、鬼狩りが起きてしまえば、母のようになってしまう」 「お母上のように?」 「ああ。母は、先の鬼狩りの際に、人の矢に打たれて死んだ」 「お母上が、そのように……」 「そうだ。私はお前を失いたくない」  失いたくないと言ってくれる博嗣に、一筋の涙が伝う。失いたくないと、そう言ってくれるのか。  でも、短い間でも、傍にいたいと思ってしまうのはわがままなのだろう。博嗣の心を無視していることになるのだろう。だから、それ以上は言えない。  それなら、せめて泣くことを許して欲しい。 「博嗣さま……会いたい。一緒にいたい。なぜ、あなたは鬼なのですか? なぜ私は人なのですか? それが、憎い」 「霞若……」 「博嗣さま……」  泣くなど子供っぽい。そう思うけれど、涙を止めることはできなかった。涙はとめどなく溢れ、声をあげて泣いてしまう。  なぜこんなにも博嗣に惹かれるのか。なぜ博嗣なのか。こんなに苦しい思いをするのなら、なぜ出会ってしまったのか。 「出会わなければ良かったか?」 「……そう思ってしまうのはいけませんか。ああ、でも出会わなければ、こんな気持ちを知ることもなかった。それなら、出会っても良かったのでしょうか」 「私も、お前と会って、こんなに人を愛しいと思うことを知ったよ。人と鬼でなければ、とは思う。けれど、出会ったことは後悔はしない」 「博嗣さま!」  そう博嗣の名を呼んで、博嗣の胸の中へ飛び込んでいった。  

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