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別離2

「鬼狩り?」 「はい。武将と陰陽寮が束になって山に押し入り、この山で鬼狩りをするそうです」  兼親との和歌合わせをした日の夜。真夏は夢で博嗣に会った時に、近々行われるという鬼狩りのことを博嗣に伝えた。 「最近、都で鬼による被害が出ているからという理由らしいです」 「そうか」 「お願いがあります。逃げていてください。鬼狩りの最中は他の山にいらしてください」 「どこの山だろうと、今の時代、鬼狩りは入るよ」 「そんな! だったら逃げてください。殺されないでください」  真夏は必死に博嗣に懇願した。しかし、博嗣は逃げるとは言ってくれない。でも、逃げて貰わなくては博嗣の命が危ないと、真夏は怖いのだ。  もし博嗣が殺されたら。鬼は簡単には死なないと言っていたけれど、刀で切りつけられたらさすがに生きてはいられないだろう。 「帝に逃げろというのか」 「帝……」 「先帝である父は逃げずに、果敢に立ち向かって行った。母も私を守ろうと太刀を持って人間に向かっていった。なのに、その子である私に無様にも逃げろというのか?」 「博嗣さま……」 「しかし、これでわかったであろう。私はこうやって狩りの対象となる存在だ。そんな私と現で会いたいなどと言ってはいけない。鬼と人間が共存できるその日まで、その言葉は言ってはいけない」  そう言う博嗣の言葉は寂しかったし、その表情には胸を締め付けられた。  いつかの未来。共に生きようと言ってくれたのに、こんなふうに突き放されるのが悲しかった。博嗣が真夏のことを心配して言ってくれているのはわかる。自分と現で会うことで、人に殺されるのではないかと心配して言ってくれているのだ。  でも、いくら自分が助かっても博嗣が死んでしまっては意味がないとなぜ気づいてくれないのか。  いつの日か、共に生きようと言ってくれたのに。来世を約束するくらいの相手が死んでしまったら、どれだけ悲しいか博嗣はわかってくれない。いや、わかっていて突き放しているのだろうか。 「嫌だ! いくら今世では結ばれないとしても、あなたが死ぬのだけは嫌です!」 「真夏……。大丈夫だ。死なないよ」 「本当ですか? でも、逃げてはくれないのでしょう?」 「逃げはしない。だけど、逃げないからと言って必ず死ぬとも限らないだろう? だから、そんな顔をするな」 「博嗣さま……私は怖いのです。こうやって夢通うのだって、あなたが生きているからこそできること。死んでしまったら夢通うこともできなくなってしまう」 「大丈夫だ」  そう言って博嗣は真夏を優しく抱きしめた。その腕の中はとても優しくて、温かくて。いつだって真夏を包み込んでくれる。この腕をなくすことなど真夏には考えられなかった。  博嗣の背に腕を回し、博嗣を抱きしめ返す。 「お慕いしているのです。ただ、それだけです」 「私もだ」  腕の中でそのようなことを言ってくれる博嗣に、胸が温かくなると同時に悲しかった。なぜ、この世では共に生きられないのか。 「博嗣さま。他の鬼は知りませんが、あなたは優しい鬼です。宮中へ行ってわかりました。人間の方がよほど鬼だと。でなければ鬼狩りだなどと考えない」 「それは仕方ない。人を襲う鬼がいるのも事実だ。そんな鬼を束ねられない情けない男だけどな、私は」 「いつか。いつか、人間と鬼が共存できる世界が来て欲しい。そうしたら博嗣さまと共に生きられるのに」 「そうだな。それまで、待とう。現では会えなくても夢では会える。来世でも私を覚えていてくれ。そうしたら夢通える」 「はい」  来世でも必ず夢通うと。そうすれば、怖いものなんてない。真夏はそう思った。

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