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鬼の記憶5
午前9時半に迎えに来たタクシーに乗り元伊勢の外宮である豊受大神社へと行った。
長い石段を登ったところに、古い茅葺き屋根の神明造りの屋根の社があった。
まずは手を合わせて、ゆっくりと建物を見たときに気がついた。千木が外削ぎで鰹木が9本なのだ。
千木と鰹木は祭神の性別によって違う。外削ぎは男千木と言い、男神を現す。そして、奇数の鰹木は男神を現す。でも、豊受大神社は、その名の通り、女神である豊受大神を祀っている神社だ。
「なぁ、兼親。屋根、気づいた?」
「気づいた。男神仕様になってるよな」
「豊受大神を祀る外宮では、千木は外削ぎで、鰹木は奇数本乗せられることが多いっていうけど、どうも納得がいかないんだよな。外宮だからって性別が変わる訳じゃあるまいし」
「ほんとにな。内宮と外宮で性別が変わるとか、こう作られているからって理由になってないよな。これじゃあ豊受大神は男神だって言った方がよっぽどすっきりするよ」
「誰かにこれをすっきりとした理由で説明して欲しいな」
「ほんとだな。ま、次、内宮行くか」
「そうだね」
そう言って真夏と兼親は並んで階段を降り、待たせていたタクシーに乗り込んだ。次に行くのは元伊勢の内宮、皇大神宮だ。
皇大神宮は、山の中の、やはり苔むした石段を登ってやっと姿を現した。どうも最近はパワースポットとか言って訪れる人が結構いるみたいだ。
先ほどのことがあるから、手を合わせる前に千木と鰹木を確認する。千木は内削ぎ、鰹木は10本。女神仕様になっている。いや、それで正しいのだ。主祭神は天照大神だから。
「やっぱりきちんと女神仕様だよな。なんかホッとした。普通はこうだよな」
「うん。普通はね。さっきのがおかしいんだよ。でも立派な社だな」
「階段と鳥居が苔むしてて古いのがわかるけどな。でも、こうやって見ると籠神社は綺麗だったよな」
「眞名井神社は古かったけどな」
「でも、やっぱり元伊勢って、かなり昔だよな。ほんと古い」
「だって、元、だからな。今の伊勢神宮だって古いんだから」
「そうだな。よし! 天岩戸神社に行くか」
「うん」
登った階段を降り、天岩戸神社に行って貰う。車が止まった所はなにもない所だった。よく見ると、小さな木製の看板が出ているだけで、建物もなにも見えないからだ。
看板は山道を降りていくように指している。川のせせらぎと蝉の声を聞きながら歩いて行くのは気持ちいい。木陰で陽がまともにささないから言えることだけれど。
龍燈明神と書かれた古い祠を過ぎ、また、天の岩戸神社と書かれた看板が見え、石段を降りていくと社務所と鳥居が見えた。さらに階段を降り、川沿いの細い参道を歩く。少し歩くと苔むした巨岩が目につくようになってきた。この巨岩を上ったところに小さな社殿が張り付くように立っている。
社殿に上るには鎖を伝って登る必要がある。
「登るか」
「怖いけど、行こうか」
「うん」
1人ずつ鎖を伝って岩を登った社殿から見る景色は、神々が天下った地と言われるのにふさわしい景色だった。
「すごいな」
「ここに神々が天下ったのか。そう言われると納得しちゃうな」
「ああ」
2人はしばらく景色を眺めていたが、降りることにした。
「これで元伊勢、コンプリートだな」
「タクシーで回って良かったよ。ちょっと高いけど、2人で観光バスにでも乗ったと思えばいいよな」
そんなことを話しながら、来た道を戻る。
「でも、なんか既視感があるんだよ……」
「え? ここがか? 夢絡みか?」
「籠神社以外の元伊勢。特にここは」
真夏は真剣な顔をしている。だから兼親はそれを信じる。そして、真夏は鳥居のそばに祠があるのを見て、あ! と声をあげる。
「ここ……」
小さな祠を真っ直ぐに見て真夏は言葉を途切れさせた。
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