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前世の夢7
「真夏、大丈夫か? まだ顔色悪いぞ」
博物館を出て、近くのカフェに入って落ち着くと、兼親が心配そうに声をかけてくる。そんなに自分はひどい顔色をしているのだろうか。
「もう大丈夫。ありがとう」
そう言って微笑むけれど、兼親は眉間に皺を寄せたままだ。
「あの刀。何か思い出したのか?」
「思い出したっていうか……」
あれはなんと説明すればいいんだろうか。思い出した、でいいんだろうか。
「酒呑童子で何かを感じたのか?」
酒呑童子で……。いや、それは違う。刀でだ。それも”童子切安綱”ではなく、刀というものにだ。
「酒呑童子じゃない。なんならあの”童子切安綱”でもないよ。ただ、刀に何か感じたというか思い出したというか……」
「やっぱり酒呑童子じゃないんだな。でも、刀ってなんだ? 平安貴族が刀なんて持ったのか?」
「うん。違うよね」
「そうだな。貴族が持つものなんて扇くらいだもんな」
兼親は、平安貴族の真夏の夢を見ているから、こんな話しをしても変な顔をしたりしない。だから話しやすい。
「本当に鬼狩りなんてあったんだ。でも、平安時代でって言ったら源頼光が四天王を率いて酒呑童子の首を斬りにいった時か? それとも別にあったのかな?」
「わからないけど、酒呑童子っていう名前にピンと来ないんだよ」
「そうみたいだな。そうしたら伝説が残ってるのとはまた別にっていうことか」
「多分……」
大江山でもそうだったけれど、ここでも酒呑童子という名前ではピンとこない。鬼の頭領だったというのに。それとも自分が感じている鬼は、酒呑童子の下にいる鬼だったのか。
いや、酒呑童子本人ではなく、その下にいた鬼だとしたって、酒呑童子に絡んでいれば何か感じるだろうに、それは一切ないのだ。
「酒呑童子って本当にいたのかな?」
「いなかったとしたらあの刀はおもちゃだな」
「そうだよな。だとしたら、俺が夢で会っている人は鬼じゃないのかな」
「どうなんだろうな。真夏が鬼に反応するのは確かだけど、その夢の人が鬼かどうかはわからないよな」
「うん。でも、なんとなく人ならぬ者って感じがするんだよな」
「うーん。夢で会話が出来るのなら、本人に訊いてみるのが一番だと思うけどな」
(夢で訊く……。それは考えなかった)
「でもさ、その銀髪の人が鬼じゃないとしても、なんであの刀に反応したんだろう?」
「鬼狩りだから?」
そう言葉にして真夏は軽いショックを受けていた。
「俺さ、山を登ってた時、何か諦めたような顔してたんだよ」
「ということは、やっぱり鬼狩りで、そこに銀髪の人がいると思ってた、と考えるのが自然だな」
「やっぱりそうか……」
「でも、本当のことは本人に訊かないとわからないけどな」
「そうだね。今度夢見たら訊いてみる。訊ければだけど」
でも、と真夏は思う。あの人が人間じゃないとして。鬼だとして、何かが変わるだろうかと考える。鬼だと言われても会いたいと思う気持ちは変わらない。ただ、あの人が鬼じゃないとしたら、さっき感じたあの自分の、何かを諦めたかのような顔はしないだろう。どちらにしても、訊いてみないとわからないな、と真夏は思った。
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