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貴方を思い出した4
「帰ってきたか。収穫はあったのか?」
兼親のバイト終わりに、2人でファストフード店に来た。2人の今日の夕食だ。真夏はダブルチーズバーガーを、兼親はダブルバーガーを選んだ。それでもお腹の空いていた2人は、会話をするよりも先にバーガーを食べ終えてからやっとポテトをつまみながら話し始める。
「収穫はあったよ。山の伝承を聞いてきた」
「すごいな、それ」
「うん。博物館でガイドの人と少し話をして、それで山の伝承に詳しいお婆さんを紹介してくれた。あの辺では、よく笛の音が聞こえるらしいんだ。そして、鬼はいたって。銀の髪に、赤い目をした鬼が笛を吹いていたって言うんだよ」
「それってもしかして、真夏が夢で見る人か?」
「うん。そのままだよ。だから、夢のあの人は間違いなく山にいる」
「でも、それって過去の話だろう? 今もいるのかな?」
「今もいるだろうって。それに……」
「それに?」
真夏の話の続きが気になり、兼親はポテトをつまむ手が止まった。
「夢で会ったんだ。それで会う約束をした。会う場所も教えて貰った」
「じゃあ、今も本当にいるんだな」
「うん」
真夏が嬉しそうに頷くのを見て、兼親は複雑な気持ちになった。真夏の夢に繰り返し現れる人(鬼)は現実にいる。だから、真夏が記憶を全て取り戻したら会える。それはとても嬉しいことだ。真夏は小さい頃から夢を繰り返し見ていた。それは兼親も知っている。だから真夏のことを思えば嬉しい。だけど、それと同時に寂しいと思うのだ。真夏は全てを思い出したら行ってしまう。そうしたらもう会えなくなってしまうのではないか。そう思うと寂しいのだ。
「兼親? どうした?」
「え? 何も」
「そうか? なんだか辛そうな顔をしていたぞ」
考えていたことが全て顔に出ていたらしい。それなら聞いてしまえ。そう思い、兼親は素直に真夏に聞いた。
「全て思い出して、会うとしたらどうするんだ? 大江山と東京だと遠いだろ」
「……そうだね。遠距離……っていう手はないなぁ。千年以上離れていたのに、せっかく生まれ変わって会えたのに、遠距離とか。それなら思い出す必要ないし」
「そしたら……」
「あっちに、行くかな……」
真夏がその言葉を発した時、兼親は胸が苦しくなるのを感じた。真夏が行ってしまう。行ってしまったら、こうやって会うことは出来なくなる。何気ない話をして、笑って……。そんな当たり前の、今まで何回となく繰り返していたことが出来なくなってしまう。けれど、兼親がそう考えていることに気づいたかのように真夏は言った。
「行っても、きっと兼親とは会えるよ。山に来て貰う必要はあるかもしれないけど。その辺はよくわからないけど。全く会えなくなるのは寂しいよね」
会えなくなることを寂しく思うのは自分だけじゃない。そう思うと少し嬉しかった。子供の頃から今まで。ずっと隣にいたのだ。いなくなることが寂しくないはずがない。
「まぁ、あと少し思い出さなきゃいけない気がするんだ。それは笛な気がする」
「笛?」
「うん。博物館で龍笛を見た時、何かを感じたのに、あの人が持っていたのは竹の笛だったんだ」
「竹の笛? 龍笛じゃないのか」
「うん。だから、そこに何かある気がする」
「他は思い出したのか?」
「うん。どうして俺が死んだのか、あの人の名前は何か。しっかり思い出したよ」
「そっか。そうしたらあと少しなんだな」
「うん」
そう頷く真夏の表情は明るく、現実で会えることを楽しみにしている様子が伺い知れた。真夏が山へ行っても会えるにしても、もうこの関係は変わってしまう。真夏の隣にいつもいることは叶わなくなる。2人の関係が大きく変わってしまう。そう思うと、やはり悲しいなと兼親は思った。
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