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貴方を思い出した7

 朝の光がカーテン越しに部屋を満たした頃、真夏はゆっくりとスマホを手に取り、兼親に連絡を入れた。「今日、少しだけ会えないか」と。  結局、兼親とは兼親のバイト前の時間に会うことになった。向かったのはいつも2人でよく利用していた静かなカフェ。まだ開店して間もない時間で、客はまばらだった。窓際の席に座ると、店内に漂うコーヒーの香りが、ほんの少し緊張を解いてくれた。 「こんな時間にごめんね」 「いや、いいよ。気にするな」  そう言って兼親は穏やかな表情でカップを持ち上げる。真夏はその表情をしばらく見てから静かに口を開いた。 「……俺さ、思い出したんだ、全部」 「全部?」 「うん。俺、あの人を庇って矢に射たれて死んだんだ」  そう言う真夏の声は、まるで本の中の物語を語るように淡々と静かに、けれどしっかりと芯のある声だった。兼親はそれを聞いて、1度瞬きをし、それから少し目を伏せて微笑んだ。 「やっぱり……そうだったんだな」 「やっぱり?」 「俺も夢で見てたんだ。ずっと前から何度も。最初は断片だったけど、最近ははっきり。山で、真夏が誰かを庇って矢に射たれて倒れるのを……」  真夏は驚いてカップを持とうとした手を止めた。兼親の声は静かで、そこに嘘はひとつも感じられなかった。 「悲しかった。すごく。俺は何も出来なくて、ただ見ているしかなかった。夢なのに苦しくてさ。目が覚めても胸の奥がずっと重かった」 「それは、あの時のことを……」 「思い出していたんだと思う。気づかないふりをしていただけで。真夏がずっと夢に苦しんでたの知ってる。でも……思い出すのが怖かったんだ」  コーヒーの香りが2人の間の静寂にそっと滲む。 「ごめん、兼親。ずっと、自分のことで精一杯だった」 「謝らなくていいよ。俺は、真夏がその人に会いに行くのなら止めない。きっと、もう止められないって思ってたし」  兼親のその言葉に、真夏の喉が詰まる。胸の奥に、ゆっくりと熱が広がって行く。理解されることの温かさと、深く静かな悲しみが、涙になりそうで、ぎりぎりで堪えた。 「……ありがとう、兼親。今も昔もずっと傍にいてくれて」 「うん。……行ってこいよ。ちゃんと会って、話して」 「うん」  2人は黙ってカップを口に運ぶ。窓の外ではピルの隙間を朝の風が通り抜けていく。ほんのひとときの時間が、何よりも尊く思えた。もう言葉はいらなかった。兼親は全てを知り、そして受け入れてくれていた。それだけで真夏の足はもう、どこまでも進める気がした。 「真夏。昔も今も、ずっとずっと好きだったよ」 「兼親……」  そう言ったきり兼親はもう口を開かなかった。  

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