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第14話 倉庫とガラスコップと、伊藤の策略
山本は助手席に座り、街の景色が都市から田舎に変わっていくのを見て不満そうに言った。
「…だから俺はなぜついてきたんだ?」
「仕方ないだろ」
伊藤は運転しながら、後ろでぐっすり眠る久米をミラー越しに見て言った。
「吉田はサンプル検査に同意したけど、社員が手が空かないから、俺たちでやるしかないって」
「じゃあ俺だけ連れていけばいいのに、なんであいつも連れてくるんだ?」
山本は寝ていてよだれが出そうな久米をチラッと見て聞いた。
「人数多いほうがいいんだろ」
伊藤は片目を細めて笑った。
「……また何か企んでるだろ?」
山本は昔から伊藤のそういうところが嫌いだった。言ってることとやってることが違うのは明らかだった。
伊藤は山本の質問を無視して、後部座席でぐったりしている久米に声をかけた。
「久米君、起きろ」
久米は目をこすり、座り直した。
道中、伊藤と山本の会話が子守唄のように聞こえて、いつの間にか目的地まで寝てしまった。
窓の外に広がる田畑を見て、ぼんやりと尋ねた。
「ここはどこですか?」
「伊吹会社の倉庫だ」
伊藤は車のドアを開けて降りた。
山本と久米が一緒に倉庫の前に来ると、伊藤は鍵を取り出した。
――おばけ屋敷のBGMが流れてきそうな風景だ。
久米は寒気を覚え、薄暗い倉庫に積まれた段ボールを見て言った。
「あれは全部僕たちの荷物ですか?」
「そうだ」
伊藤は頷いて、手を伸ばしてライトのスイッチを押した。白熱灯が頭上で点き、少しだけ明るくなった。
彼は中に入り、目の前の段ボールを開けた。中には今回の契約商品――ガラスコップが入っていた。
一つ取り出し、久米と山本に言った。
「不良品はそん中にある。今回全部で三千個ほど。中からそれを探し出して数を確認すればいい」
「まるで自分と関係ないみたいな言い方だな」
山本はコップを手に取り、じっくり見た。
「もちろんだ」
伊藤は久米を段ボールの山に押しやりながら言った。
「この仕事はお前ら二人に任せた」
「……は?!」
久米と山本は初めて意見が合い、驚いた。
伊藤は鍵を指でくるくる回し、申し訳なさそうに笑う。
「今からデートだから、すまんな」
そう言ってほとんど走るように立ち去った。
久米はしばらく言葉が出ず、山本も呆然としていた。ふと二人の視線が合い、山本がこめかみに手を当ててため息をつく。
「気にするな」
彼は左の段ボールを開けて、検査作業を始めた。
久米もすぐに手伝い始めたが、心の中で伊藤の言葉がぐるぐる回っていた。
「今からデートだから」
――これから何が起きるのか、誰もまだ知らなかった。
うっかり予約時間を間違えて、まさかの3話連続更新に…… しかも順番間違えちゃって、13話の壁ドン伊藤が遅れて登場しました🙇♀️笑
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます!
次回はちゃんと明日20時に更新します〜!
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