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第3話 海上都市 アクセロス
ゼーハー、と荒い息をついてるのはアサギ一人だけど、俺達も軽く息が切れるくらい走らせちゃったからよくついてこれたもんだと思う。
ひ弱に見えても流石は男の子!
「……大丈夫?」
だけどフードを持ち上げる気力もないのか、月明かりに鈍く反射する首輪もその眼福なご尊顔もオープンだ。でもその片頬は殴られた所為で赤く腫れて痛々しい。
へたりこみそうになってる筈なのにアサギは大丈夫、と頷く。
「宿代踏み倒しちゃったなぁ」
辺りに不穏な気配はない。何とか撒けたみたいだ。それを確認してアサギを座らせる。
「しょうがねぇだろ。次までツケだ」
女将さんなら変な集団が来て俺達が消えてたら何かあった事は察してくれるよな。
「あいつら一体何?」
センが訊くけど、まだゼーハーしてるアサギは答える余裕がないみたい。ホントに無理させたなぁ。担げば良かったか。
「確かこの先に洞窟があったよな。ひとまずそこに行こう」
暗い森の中だ。夜の森なんて魔物の天下。ここに留まるなんてもっての外だし、下手に動き回るより身を潜めて朝を待つ方が懸命だ。折角座らせたけど仕方ない。
「ごめんね、……もう一度立てる?」
ガクガクする膝に懸命に力を入れて立ち上がるアサギに手を貸して引き上げ辺りを見回す。
「!」
アサギがビクリと跳ねて俺に縋った。同時に俺がアサギを背に庇い銃を、ケイが愛刀を、センが杖を構える。
「あれしきで我々から逃げられると?」
うわぁ、仮面マン撒けてなかった!
なーんてねー。宿屋は狭くて不利だったけど、ここなら暴れ放題だし。もう逃げる選択肢はないんだよなー。
「良くわかんないけど、仮面マンはお迎え?それとも普通に敵?」
アサギは一瞬の迷いもなく俺の背に
《敵》
って綴った。
そうだよね。お迎えにしては纏う気配が不穏すぎ。
「じゃあ遠慮なく~」
てゆーか遠慮してたらこっちが殺られそうだしな。
明らかに殺る気満々だった仮面マンを闇に葬り去って現在洞窟。コクコクと舟を漕いでるアサギを肩に寄りかからせる。
「……受けるの?」
俺が訊くとケイは炎に照らされてぼんやり明るい天井を見上げた。
家出した、帰りたくない、っていうのは半分本音で半分は嘘だった。俺達に迷惑かけたくないとか強さが謎だからとかそんな理由で半分の本音を話してくれたみたいだ。仮面マンを倒した事で残り半分を話してくれる気になって、その上でアサギは依頼を持ちかけてきた。
アサギは天空国センティスからの逃亡者だった。あの仮面マン達はアサギの“ご主人様”の兵士達。逃げたアサギを捕らえに来たのだそうだ。
でもアサギには捕まるわけにいかない理由が2つ。1つは勿論連れ戻されたらどうなるかわからないからだけど、もう1つは未だにそこに囚われてるお兄ちゃんを助けたいっていう理由。
囚われてるってゆーか飼われてる、らしいけど。変態さんか。気持ちはわからんでもないけど!こんな美人のお兄様ならそっちもさぞや美人なんだろう。
美人兄弟に首輪までつけて飼ってる変態……イメージ的に脂ぎったおっさんな気がする……。
その自分を逃がしてくれた美人お兄様(予想)を助けたくて、ワープ装置のある古代都市ステュクスからはるばるティルニソスまでやってきた。兵士を雇うならそこだってステュクスの住人に教わったらしい。
ステュクスは最北。ティルニソスは南寄り。かなりの距離を歩き続けた事になる。その間に食料も金も殆ど使い果たしてしまったのだとか。
「……センティスに傭兵とか兵士とかいねぇのかよ」
断りたい、が前提の物言いだ。Sのくせに妙に慎重なケイの気持ちもわかるけどさ。
「いるけど、味方じゃなかったんじゃない?じゃなきゃ密入国してまでこっち来ないでしょ」
弟がいるというセンはアサギに同情的意見だ。ケイはまた天井を仰ぐ。
「……仮面マンが戻ってこなかったら、ご主人様とやらから二陣三陣送られるんじゃないのか?」
俺が言えば、いつの間にやら睡魔に負けてスゥスゥ寝入ってしまったアサギに二人の視線が集まる。またフードに隠れた顔には大きなアザが出来てしまった。魔法治療も出来るけど、軽い怪我を魔法治療していくとその内体が自力で治癒する力をなくしてしまう。だから痛々しいけど、自然治癒させるしかない。
仮面マンは何の躊躇いもなくアサギを殴り倒した。つまりあいつらはアサギをそういう扱いをしてもいい人物だと認識してる。
「……不法入国が禁固刑何年だと思ってる」
「50年だっけ?んなもんセンティス側が勝手に決めただけだろ」
しかもアティベンティスからセンティスへの不法入国が禁固50だ。逆は特に規定はないけど、不法入国で犯罪を犯せばそれにみあった罰が課せられる。センティスからアティベンティスの不法入国だけなら強制送還程度で済む。この差は何?って感じなんだけど。
「でもさー、でもさー!見たくない?美人のお兄様!」
「ソラって変態だよね」
「セン君酷くない!?」
「ケイ、どうするの」
「全無視っすか!」
お礼として受け取ってもらえないなら報酬の前金として、って渡されたブローチはケイの手の平で弄ばれてる。成功報酬はこれの倍額払ってくれるらしい。傭兵的には結構揺らぐ金額だ。しかも働かずに手に入れるんじゃなくて正真正銘命を張って手に入れる。
まあその金の卵の出所が変態脂身オヤジが美少年にプレゼントした物って考えるとちょっとげっそりするけど。そうだよね、そんなもん不要だよね。さっさと売って金にしちゃいたいよね。でも最後まで我慢してとっといたのは偉いと思うよ、俺。
「厄介な仕事程燃えるだろー?」
「……手駒が足りねぇ」
手のかかる仕事程傭兵冥利に尽きるってもんだ。渋りながらも前向きに検討しはじめてくれたらしい。
「……だったら、師匠に頼んでみない?」
「「え~……」」
俺とケイの声は見事にハモった。
ティルニソスからさらに南の海側へ向かうと海上都市アクセロスがある。海がつく名の通り海人が多く住むそこは常夏の都市。
海人って水の中でも長時間活動してられるけど、水中で生活してるわけじゃない。寝るときは陸地だ。普通に二足歩行で言葉も通じる。俺達ヒト種との違いは……手足の水掻き?あとは耳、って呼ばれるのがヒト種のこめかみあたりにポツンと開いた穴だったり、肌が青かったり緑だったり灰色だったりするところか。髪は金髪の人が多いかなぁ。あと女の海人は歌が上手。どっかの昔話に海で歌って人を惑わす伝説の生き物がいたけど、ここの人達はそんなことしない。むしろ陽気な歌で盛り上げてくれる方かな。気候にみあった熱血漢が多いのが暑苦しくて困るんだけど。
アサギは初めて見る海人に興味津々だ。ちょっとフードを上げて俺の左腕に掴まったまま、ずっとキョロキョロしてる。掴まってなかったら間違いなく迷子だ。
でもそうだよなー、海人は基本水辺に住むし寒さが苦手だからステュクスじゃあまずお目にかかれない。ティルニソスにも依頼に来るくらいしか現れないし。センティスにはヒト種しかいないらしいから珍しいよなぁ。
《あれは何をしてるんですか?》
袖をクイクイと引っ張ったアサギが指を指した方向に人だかりが出来ている。見ればどうやら旅芸人が来ているようだ。
「お、珍し。獣人の旅芸人じゃん」
獣人はさらに科が別れてて兎科、犬(狼含)科、猫(肉食獣含)科、あと何がいたっけ?正直萌えに必要な事しか覚えてねぇや。
「サイテーだね、ソラ」
「セン君心読まないで!!」
なんてやり取りしながら通り過ぎようとしたけど、アサギが残念そうにチラチラその人だかりを見てる。
「……見たいの?」
首を振るけどもの凄く見たそうなオーラ出てるし。
「……しょうがねぇな。俺とセンが都市代表者 のトコ行ってくるから、その辺回ってこい」
アサギはパッと嬉しそうにしたけど……、珍しい物ばっかで歩みの遅いアサギに合わせるのがめんどくなっただけだこいつは。でも俺もお偉いさんに会うよりアサギといた方が楽しいし、ラッキー。
「宿取っとくか?」
「……追われてんなら宿より娼館だろ。アルマーのとこ行ってろ」
確かに。追う側が最初に探るなら宿屋だ。連れ込み宿もだけど、娼館も実は意外に穴場。追われてるのに女遊びするわけない、って先入観が働くみたい。それに万一ドア前まで来られたら派手に喘げば向こうは怯むしな。
喘ぐ演技はセンが担当。俺とケイは自他共に認める気持ち悪さだからやらない。というか、一度試しにやってみたら即バレて踏み込まれたんだ。名演技だと思ったのに……。
因みにケイの言うアルマーは元依頼主。ここに娼館を開く前護衛を頼まれて、その時に知り合った。あの時は俺達も漸く独り立ちした頃だったからすっげぇ緊張してたんだよなー。無事この都市に辿り着いた時は腰抜けるかと思ったくらいだ。
その旅の中でケイと同郷だった事を知って親近感を抱いたのか、ここへ来る時は顔を出せって煩いからなるべく出すようにしてる。行かなかったのがバレた時が怖いし。まぁ、“そういう”意味の客にはなれないけどアルマーは友人に会った感覚で話してくれるから楽だ。
「わかったー。テキトーに回ってそこ行くな~」
「夕飯までには来いよ」
俺達の会話そっちのけで旅芸人に夢中なアサギが見えやすい位置に移動する。子供みたいに目ぇキラキラさせちゃって可愛いの。猫のお姉さんの火の輪くぐりとか狼のお兄さんのナイフ投げとかあんまりにもキラキラ見てるから、
「楽しい?」
って訊いたらコクコク頷いた。
《センティスではこんなの見たことがありません》
センティスからの旅芸人すっっっごく稀に見るし、そう言うのは多分基本外に出してもらえないからじゃないか、と思う。
ずっと鎖で繋がれて部屋の中に閉じ込められてたんだって。唯一外界と繋がる窓の側がアサギの居場所で、たまに来る鳥が友達だったってここに来る道すがら聞いた。深窓の姫君みたい。
お兄ちゃんは別の部屋に繋がれてたけど、アサギよりはまだ少し自由で稀に様子を見に来てくれてたのだとか。そして今回、それを利用してリードにくっついた錠の鍵を盗んでアサギを逃がしてくれた。
(そこまで大事に閉じ込めた子逃がしちゃって……大丈夫なのか?)
《兄上にも見せてあげたいです》
ちょっと寂しそうに笑うアサギに曖昧に微笑み返しながら、果たして救出に向かうまでそのお兄ちゃんは無事でいるだろうか、と考える。アサギの話ではお兄ちゃんはアサギより優秀だから絶対に殺される事はないという。でも代わりに死んだ方がマシって目に遭ってる可能性に考えが行き着いているかどうかは流石に確認出来ない。
「何だこれは」
ついでに買い出しも済ませてきたらしく、夕飯時を少し過ぎた頃漸く現れたケイの第一声だ。目線の先にはヒト種のお姉さんに海人のお姉さん、兎科に猫科犬科牛科、何人もの娼婦を侍らせて固まってるアサギ。頬やらデコやら口元やらあっちこっち口紅だらけでちょっと涙目。
「あらぁ、怖くないから泣かないでぇ~」
「やぁん、姐さんズルイ~!こっちにもおいで~」
「固まっちゃって可愛いいわぁ」
仕事の時間には早いけど殆ど全員が集まって談笑してた広間に入った時、フードを目深に被ったアサギに警戒心バリバリだったお姉様達は素顔を見た瞬間餌が投げ込まれた池の鯉みたいになった。ソファーに引き摺るように座らせてよってたかってハグしてチューして撫で回して……。
「俺は放置プレイでした」
「それは仕方ねえ」
「ソラだしね」
「どういう理屈!?」
ほんとに酷いよね、俺の仲間達!!
「あんた達!!そろそろボウヤを離しておあげ!」
俺の相手をしてくれてたのはアルマーだけだ。最も俺もアルマーもオロオロするアサギが可愛くて放置してたんだけど。
全員揃った所で漸くかかったアルマーの制止に、娼婦達は一斉に不満そうな声を上げながらも子兎みたいにプルプルしてるアサギを解放してくれた。途端に跳ねるようにソファーから立ち上がってフードを被り直しながら俺の側に座って
「痛!」
肩をペシッと叩いた。どうやら何で助けてくれなかったのか、ってお怒りの様だ。
「お姉さん達の機嫌損ねたらここに泊めて貰えなくなるでしょー?」
あ、フードの下で膨れてる!フグみたい!可愛い!!
「あんな美女に囲まれて男としては羨ましい限りだったってのにさ」
アサギの行動の初さに悶絶してたお姉さん達は俺の軽口に嬉しそうな声を上げる。
顔の口紅を落としてやりながらツンツン頬をつつけば極限まで膨らんだ。ほんとのフグみたいだ。
「まああんた達も座りなよ」
アルマーは呆れたように俺達のやり取りを眺めてたケイとセンにそう促した。
「確か二月……、いや、三月ほど前じゃなかったかねぇ?」
アルマーは今にもドレスからはみ出しそうなくらい豊満な胸の下で腕を組んでそう言った。この娼館の女主人である彼女は若い頃は自身も娼婦であったという。
化粧の下は年齢を重ねた女の貫禄があるし、アサギの2.5倍はふくよかだけどその艶っぽい流し目はかつて人気娼婦だったという事実が嘘じゃないことを伝えてる。現役を退いたとはいえ故郷の母ちゃんを思い出した男に頼まれれば相手をしてやるのだとか。最もそういう場合は閨の睦み事なんてしっとりしたモンじゃなくて、叱る、甘やかす、慰める、添い寝する、とかそんな感じの相手だけど。
さっきまで俺にプンプンだったアサギは夕飯後に出されたココナッツのジュースとプリンに夢中。甘いもの好きなのかな。何か花飛ばす勢いでご機嫌なんだけど。
「最初からこっち来りゃ良かった。とんだ無駄足だ」
空いたケイのコップにエールを注いでやりながらアルマーが笑う。
「真っ直ぐうちにこないからそういう目に遭うのさ」
「お楽しみは最後に取っとく性分だ」
「おや、じゃあ今日こそあの娘達の相手をしてくれるのかい?」
「あんたに会うのを楽しみにしてるんだがな、アルマー」
いつものやり取りだけど背後のお姉さん達からは明らかな落胆の声が漏れた。
「良く言うよ色男」
ふん、と可愛らしく拗ねてみせたアルマーの視線がセンにプリンを貰って嬉しそうなオーラを醸し出すアサギに移る。フードを取らないままでも視線を感じたみたいでアサギが顔を上げた。
「ホントに可愛いボウヤだねぇ。それはそんなに気に入ったかい?」
プリンを指されコクコク頷く。
「いくら可愛いからって誘惑しないでよアルマー。俺達の雇い主なんだから」
今にも取って食いそうだ。
「こういう純な子程色々教えてやらないといけないんだよ。あんたみたいにスレる前にねぇ」
「えー?俺今でも純粋じゃない?」
「変態の間違いないじゃないかな」
「セン君俺に何か恨みでもあるの!?」
しかもさりげなくケイまで頷いてるし!
「でもホントにあの人達は落ち着きないなぁ」
そして無視ですよ!!酷いよね!
「あの子達もあんた達には言われたくないだろうさ」
俺達の師匠を“あの子”なんて呼ぶのはアルマーだけだ。
ここへ来た目的は1つ。傭兵稼業から退いてしばらくフラフラした後、アクセロスラーナの護衛についた師匠達に手を貸してもらう為……だってのに。その師匠達はラーナの私兵を育て上げ、すでに他の都市へ旅立ってしまったのだとか。
「とりあえずウェンリスに行くとか言ってた気がするよ」
「東か……」
山岳都市ウェンリスはここから東。名の通り山岳地帯にあるから主に鳥人と獣人が多い。切り立った険しい山と豊かな自然がある。
アルマーはプリンを食べ終えて満足気な吐息をついたアサギが手を合わせてごちそうさま、してるのを慈愛の眼差しで見つめながら、
「今晩は泊まっていくんだろ?部屋は2つしか空けてやれないけどいいかい?まあ、あんた達がそれぞれ相手してくれるってんなら4つ使わせてやれるんだけどねぇ」
なんて軽口を混ぜながらケイに流し目。
「悪ぃけど仕事中なんでな」
「あんたはいっつもそれじゃないか。たまには仕事中じゃないときに来ておくれよ」
元娼婦らしく妖艶にしなだれかかるアルマーを見たアサギが赤くなって、それに気付いたアルマーにまた派手なキスマークをつけられたのは多分仕方ない。
実はただならぬ仲のケイとセンを同室にすれば必然的に俺とアサギが同室になる。ここに来ると軽口だってわかっててもセンが機嫌悪くするんだよなぁ。所謂ヤキモチなんだけど。それを知っててからかうアルマーも人が悪い。センの機嫌はケイにとってもらうとして、俺はお姫様と楽しく過ごしますかねー。
「そっち風呂だから先入ってきな~」
ずっと野宿で風呂代わりの水浴びばっかだったしな~。俺達は慣れてるからいいけど、流石にアサギを川に放り込むのはどうかと思ったから濡れタオルで拭かせてた。だから風呂、って聞いてアサギから喜びのオーラが滲み出る。
話せないから困るかと思ったけど案外何考えてるかわかるようになっちゃった。まあ、細かいところは理解できないけど喜怒哀楽は何となく。だって意外に感情豊かだし。
「ローブはたいといてあげるからそこ置いといてね」
埃まみれのそれを指すと戸惑う……、違うな、躊躇うような間。
「大丈夫、これもお仕事。気にしないで」
仕事っていうのは勿論嘘です。
いや、そういう扱いをどうしてもしないといけないお偉いさん相手ならするよ?でも俺達は雇われてるだけで召し使いになったわけじゃないからな。お偉いさんには大体使用人がくっついてくるし、ご機嫌とりも身の回りの世話もその人達がするから基本放置だ。一般市民で俺達を雇う人には相手が不快な思いをしない程度の事はする。拗ねて金貰えなかったら困るしな。
だから何もなく進んで面倒をみるのはアサギが初めて。だってやっぱ可愛いし。可愛すぎてほっとけないし。
お仕事、が効いたのかいつもみたいにおずおずとフードを下げてローブに手をかける。そういやローブの下は見たことないな。体拭いてるトコ見るなんて真似はいくらなんでも出来ないし、どんなに暑くてもローブを脱ごうとしなかったし。
(追っ手がいるから出来るだけ隠れたいんだろうなぁ……)
こっちとしても変な虫つかなくて済むからいいんだけどね。
ローブの下には抱きついた時に思った通り、服ごしでもわかる華奢な体躯が隠れてた。ホントに良くこの細さでティルニソスまで無事辿り着けたもんだ。いや細さ関係ないかもだけど。でもその細っこい体に不釣り合いな銀の首輪にどうしても視線がいく。
「……これ、外せないの?」
訊いていいものかわからなくて触れずにいたけど、ここまで露にされて触れないのも不自然かとローブを受け取りながら訊いてみた。外せるなら自分で外してるだろうな、って思ってるけど。
案の定ちょっと伏し目がちになったアサギが
《鍵がないと外れないんです》
って言う。お兄ちゃんが持ってきてくれたリードの鍵とは別の鍵がいるって事かな。
《見苦しいかもしれませんが》
申し訳なさそうに文字を綴るアサギに力一杯首を振った。
「見苦しいとか思わないよ。ただ酷いことする奴がいるもんだって腹立つだけ」
意味を掴みそこねたらしく首を傾げたアサギに
「お兄さんも早く助けようね」
って言ったら嬉しそうに頷いた。
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