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第12話 センティスの魔獣

「……何もいねぇな」  今日師匠達はいない。俺がアサギを連れて戻った時、カナさんも何だか慌ただしく出ていった。ヒエノ達も師匠達と同じくヒトハの事でまだバタバタ動き回ってる。  町外れに変な魔物がいる、と報告を受けたセンに呼ばれた俺は、お兄ちゃんにアサギを預けカッツを連れてケイ達と現場に来ていた。  だけど。 「……何かいた形跡もないよね」  センは訝しげに辺りを見回してる。 「場所違う……ってわけじゃないよなぁ??」 「いや、確かにここの筈だ」  ケイ達の所に来たオッサンは町外れにある巨木の側にいた、と言ってたらしい。町外れの巨木、は確かにここだけだ。巨木の度合いにもよるけど……、まあ巨木って言うからにはこの樹齢千年のこいつだろう。 「……逃げた?」  俺は首を傾げる。 「痕跡も残さずに?」  センも同じように。ケイはもう一度辺りを見回して、やっぱり首を傾げた。  何だか狐につままれた気分。 「カッツ!」  上はどうかと声をかけるけど。 「何の気配もありゃせんわ。どうなっとるんだ」  カッツも些か困惑気味。 「……いないもんは仕方ねえ。戻るぞ」  隠れてるのかも、と思ったけどそもそも明確に“いた”っていう痕跡すらないのは変だ。俺達は首を捻りながらアジトに戻って、これの本当の意味を知る。 「アサギ……っ!!アサギ!」  泣きそうな顔のお兄ちゃんがアジトの側で叫んでる。 「どうした!?」 「アサギがいないんだ……っ」  慌てて飛び込んだ部屋の中、車椅子ごとアサギはいなくなってた。車椅子ごとってことは自分で出て行ったわけじゃない。そもそもお兄ちゃんがいるのに何も言わずに出て行く筈ない。 「何があった?」  青ざめたお兄ちゃんが言うには、俺達が出てすぐ小さな女の子が呼びに来たそうだ。カナトが呼んでるから、と言われて出てみたけどいなくて。  女の子に聞いてみたけど彼女はそう言え、って言われただけで何も知らなかった。首を傾げながら部屋へ戻った時には車椅子に乗ったまま食堂にいたアサギはいなくなってた。 「まさかカツキが……!?」  軽くパニックを起こしてるお兄ちゃんはセンに任せて家を見渡す。 「……ケイ」 「ああ、隠し通路を使ったとしか思えねえ。とにかく捜しに行くぞ」 「カッツ!師匠達呼んでくれ!緊急事態だ!」  ◇ 「オイオイ、ホントにいいのかぁ?」  いいのか、と言いながら男は下卑た笑いを浮かべ酒を煽っている。車椅子から降ろしてベッドに放り投げた今日の獲物はかつてないほど上玉だ。  仲間達も酒を煽り、目配せしあいながら男と同じような笑みを浮かべた。 「……いいって言うなら遠慮なく頂くけどなぁ。けどその前に、こいつ反応すんのか?」  心を封じられ人形のようになっているという少年の服を取り払い、無遠慮に肌を撫で回す。 「……」  体がヒクンと跳ね、誰かが口笛を吹いた。 「ちゃんと反応するじゃねえか。じゃあ、ありがたく遊ばせてもらうとするか」 「先にお金」 「具合確かめてからっていつも言ってんだろー?」  その言い種に舌打ちした誘拐犯は言った。 「いいわよ。その代わり二度と私の前に出てこられないようにしてちょうだい」 「くく、女は怖ぇなぁ。惚れた男を盗られたのがそんなに悔しいかハピカ」  ハピカはふん、と鼻で笑う。 「悔しい?冗談じゃないわ。男のくせに男に媚び売ってんのよ?気持ち悪い!ソラ様には相応しくない。私がソラ様の目を覚まさせてあげるんだから」  それを人は嫉妬と呼ぶのだと男は笑ったが、懸命にも口には出さなかった。  機嫌を損ねて仲間を呼ばれるのは厄介だ。自分は何も知らないふりをして純粋な人間を演じるのが得意な女の事。仲間を呼んで、仲間に何の疑問も抱かせず男達に罪を擦り付けるくらい簡単にしてのける。自分にとって都合のいい方につく、そういう女だ。 「終わるまで隣で待ってるわ。早くしなさいよね!」  彼らの“味見”が終われば、アサギは金持ちの変態に売られる。強い反応がない分面白味がないから安く買い叩かれるかもしれないがそれでいい。別に今回は金が目的ではなく、ソラから引き離すのが目的なのだから。 (だってヒトハよ?)  貶めて何が悪いのか。 (例えアヤヒト様達が怒ってもヒトハだもの。みんな私の味方だわ)  ソラだって目を覚ます筈。ハピカはその瞬間を思ってクスリと笑った。  ベッドが軋む音と下品な野次が聞こえていた隣の部屋から絶叫が響いたのはその瞬間。 「ギャァァァァーーーッ!!」 「うわぁ!?な、何だこいつ!?」  悲鳴の合間に何かが壊れるような音。慌てて部屋を飛び出したハピカは隣のドアを開け固まった。 「!」 『ルルルルル……』 「ひ、ギャァァァァ!!」  触手のような物を蠢かせながら男達を貫くのは半透明な緑色をしたスライム状の魔獣。 『ギッ、グッ、ギュルル……』  威嚇音を発しながら、武器を向ける事もできず失禁した最後の男を貫いた巨体がブルブル震える。触手が抜けた男はヨロヨロとハピカへと抱きつくように寄りかかり、そのままスライドするように横へと倒れた。 「ひ……っ」  倒れた死体と目があって、思わずあげた小さな悲鳴に気付いたのだろう。魔獣は体の向きを変えず、目のような器官だけをグルリと背中に回した。  酸漿のような丸い目がハピカを捉える。 「き、キャァァーーーッ!!」  その触手が届くより早く転げるように外へ飛び出した。魔獣はそれを見送りまたグルリと目を前に回すと、ベッドに横たわる少年の足に触手を巻き付ける。 『クルルル……キュルルル……』  先程とは違い、明らかに歓喜を含ませた鳴き声をあげながら彼の体を自分の元へ引き寄せ、腕にも触手を巻き付けた。前回抵抗された記憶が残っているのか、魔獣はそのままアサギの体を持ち上げぶら下げる。 『キュ、クルルル……』  触手の一本が、ツン、と確かめるように後孔をつつき魔獣はまた小さく鳴いた。  ◇  辺りはもう夕焼けを越えて暗闇。  師匠達への伝言はカッツに任せて、俺達は辺りを探り回っていた。万一カツキだったら、って思うとお兄ちゃんを一人残しとくのも怖いし一緒に来てもらった。さっきから口数が少ない。側にいて連れ去られるのに気付けなかった自分を責めているかのよう。 (慰めたいけど……)  それは俺の役目じゃない。  頭を切り換えて考えた。アサギがいなくなった時玄関にはお兄ちゃんがいて、窓は開いてなかった。お兄ちゃんは隠し通路があるなんて知らないし、犯人は俺達が戻るまでにいくらでも隙をついてそこから出られただろう。  つまり身内に手引きした者がいるって事だ。  隠し通路を知ってるのは俺達、ヒエノ達、もちろん元々そこをアジトにしてる師匠達。カッツは俺達といたから除外できる。でもヒエノ達と師匠達がどこで何してたとか俺達は知らないし、慌ただしく飛び出して行ったカナさんだって完全にシロとは言えない。いや、俺の気分的にはシロだけど状況的には疑う必要がある。  でも今は一刻も早くアサギを見つけないと。焦りながら辺りを見回した時、二方向の暗闇から誰かが駆けてくる音がした。 「ソラ」 「ソラ様!!」  片方はカナさんと合流したらしい師匠達、片方はハピカ。 「アヤヒト様も!丁度良かった……っ!!」  今にも崩れそうな程膝を震わせたハピカが叫ぶように言う。 「どうした」  答えたのは師匠。 「あっち……っ、あっちの小屋で、魔物が出て……っ!!雇い主様が!」  俺達にはその言葉で充分。直ぐ様駆け出す。 「アサギ!!」  扉を開け、まず鼻をついたのは鉄錆び臭さ。狭い屋内で戦えるように抜いた銃を構えて飛び込んだ部屋は、天井にまで血が飛び散るくらい凄惨な有り様だ。何かに体を貫かれたような死体が何人分か転がってて、みんな一様に恐怖の表情を浮かべている。 「……っ、アサギ!!」  アサギは一糸纏わぬ姿のままベッドから少しずり落ち気味に横たわってた。俺の背後でお兄ちゃんが息を飲み、 「……アサギ……っ!!」  って叫んで駆け寄る。  俺の気の所為かな。気の所為であってほしいな。力なくダラリと四肢を投げ出すアサギの腹が膨らんでるなんて。 「アサギ!アサギ……!!何で、こんな……っ」  お兄ちゃんが取り乱して泣き出して、カナさんがお兄ちゃんを抱き締める。俺は全身心臓かってくらいの鼓動の音を聞きながらアサギの側に座り込んだ。  お兄ちゃんがかけてやった上着の下。華奢な体の腹だけが異様にポッコリしてる。 「な、ん……だよ、これ……」  手の平をついた床がヌルついて、見ればそれは緑色の粘ついた液体。明らかに人間の物ではない液体は、時折現れるスライム状の魔獣の体液に似ている。  気付いた瞬間ゾッとした。  これって……、まさか……。 「何で……っ!!」  アサギの腹は何度みてもやっぱり膨らんでて、お兄ちゃんの取り乱しっぷりはそれが俺の予想通りだと肯定しているようなもの。信じたくないけど、信じられないけど、これはセンティスの魔獣の仕業……?  でも何で。だってここはアティベンティス。国を越えるための装置は使えない。  なのに何でこんなことになった!? 「とりあえず落ち着け、ソラ」  頭から冷水ぶっかけられるのと同じくらい冷たい師匠の声が降ってきた。思わず身構えるくらいの殺気。 「魔獣についてはひとまず置いといて……どういう事か説明をしてもらおう、ハピカ」 「……え?」  それは全員一致の声。ユキさんだけは何も言わず入口の死体を確認してる。流石はツーカー。何も言わなくても師匠の意図がわかるらしい。なんてほんの少し過ったけど正直そんなのどうだっていい。  だって師匠の言い方は完全にこの惨状に誰が関係してたかを確信してる言い方だったから。惨状に、というか惨状になってしまっただけで他の意図があったことは明白。服を着てなくて、ベッドの上で、数人の男達、だなんて惨状にならなくても最悪の事態になりかけてた。  そう、思ったら。 「ハピカ……?」  酷く冷たい声が出た。  もし誤解だったら悪いけど、でも誤解じゃなかった時は……。握ったまんまの銃をさらにきつく握りしめる。 「アヤヒト様、何を……!」 「事情はカッツに聞いている。単独行動のヒエノとジャハルにはさっき、誘拐の時刻にどこにいたかを確認させてもらった。証人もいる」  いつの間に。 「君も別行動だったそうだな?その時刻、君はどこにいた?何故その子がここにいるとわかった」 「雇い主様が知らない男達に連れていかれるのを見て後をつけたんです!そしたらそこに魔物が……っ」 「……知らない男達の後をつけて、嬲られるのをただ見ていた、と?」  シーツに染み込んだ体液は乾いてない。魔獣の体液じゃないそれは明らかに人間のもの。 「何をする気か見届けてソラ様を呼びに行こうと……っ」 「じゃあどうして君の髪飾りが部屋の中に落ちていた?」  ユキさんが師匠に渡したそれは、部屋の入口で倒れ込んでた男の体の下に落ちてた髪飾り。ユキさんが死体を確認してたのはその為か。 「ち、違……私のじゃ……」  俺達の厳しい視線に気付いたか、ハピカはオロオロと視線を彷徨わせる。 「君は自分が何をしたかわかっているか」 「わ、私じゃない……私は関係ない……っ!!信じてください、ソラ様!犯人はこの人達でしょ!私じゃない!!」 「今回の件、内部に手引きをした者がいなければ不可能だ。我々はヒトハを守ると決めた。悪いが本当に君が関与していた場合、相応の罰は覚悟してもらう」 「アヤ、早く連れて出ろ」  そう言ったのはカナさん。  カナさんは俺の腕をきつく掴んでる。そうされてなきゃ多分ハピカを撃ってた。どこか他人事みたいに冷静な部分が自己分析してる。師匠は言い訳を続けるハピカを拘束して、ようやく駆けつけたヒエノ達とその場を去った。 「とにかく一度帰ろう」  お兄ちゃんも茫然自失状態で涙を流し続けてる。俺達はカナさんに従って動き出した。  アサギを診てたユキさんが立ち上がって、俺達もつられたように立ち上がる。産まずに済む方法がないか考えてたんだけど、ユキさんの顔は沈痛そのもの。誰も口を開かない、その中でユキさんは重い口を開いた。 「……産むしかない……」 「!何で……!!」 「通常の女性の妊娠だったなら……出来た子供を取り出せない事もないけど……」  ユキさんはアサギの腹を撫でる。 「最初から臨月みたいなものなんだよ」  どういう事なのかよくわからん。でもユキさんはそんな俺達を放置でそのまま続ける。 「腹を切り裂いて子供を取り除けたとしても腹の子は魔物だ。例え成長しないまま取り出してもきっと生き延びる」  腹を撫でてた手を下ろしてアサギの布団をかけ直したユキさんが目を伏せる。 「でも母体となるこの子はそうはいかない。腹を切り裂いて取り出して、すぐ治癒したとしても今の技術では生存率は五分以下だ。最悪、魔物の子が暴れて腹を突き破るかも知れない。……産む以外、選択はないんだ……」  その声は苦渋にまみれて辛そうだけど、俺は構わずユキさんの襟を掴んで揺さぶった。 「ふざけんな!何だよそれ!!あんた医者だろ!何とかしろよッ!」  喚いたってどうにもなんないよ。そんなのわかってる。わかってるのにさっきから抑えてた所為で上乗せされた怒りが噴き出した。  八つ当たりだ。だけど止められない。 「できるものならやってる!!医者は奇術師じゃない!できない事はできないんだ!!」  ユキさんが出来ないって言うならセンにも無理だ。それでも納得いかなくて尚も口を開いた俺の手を、お兄ちゃんがそっと掴んだ。 「いいんだ。今のこの子には何もわからないよ。……それだけが救いだ……」  その手は震えてて、声には何の力もない。だけどお兄ちゃんは微笑んで、怒ってくれてありがとう、って言った。 「違うよ……、違うだろ!もっと怒れよ!」  何でそんな諦めたみたいに笑うんだ。  助かりたくて、自由になりたくて諦めずにここまで来たんだろ!何でここでそんな諦めたみたいに笑うんだ! 「ソラ、出よう」  俺の肩を掴んだのはケイ。 「……っ」  声にならなくてブンブン首を振るけど。 「いいから、ソラ。出るんだ」  珍しく優しい声色に反して掴む腕は強い。半ば引き摺られる形で部屋の外に出た。 「ソラ」  いいよ、って言ったセンはちょっと泣きそうで。だけどそんなの気にかけてやる余裕なんて俺にはなくて。 「……んで、何で……何で……っ何でだよ!!何で……っっ!!ふざけんな畜生!!あの女殺してやる……っ!!畜生っ!!!」  とにかく腹が立って仕方ない。  確かに魔獣の知識はなかった。だからまさか追ってくるなんて思ってなかったし、国境をどうやって越えたのかもわかんない。  だけどあの女がアサギを連れ出したりしなければ。  その為に俺達をアサギから遠ざけたりしなければ。  アサギの側には絶対誰かがいて、例の魔獣が来たとしても闘ってた筈だ。そしたら……こんな……。 「畜生……ッ!!」  ケイもセンも何も言わずに俺を抱き締めた。  ――ソラの腕の中は安心します  そう微笑んでたアサギが何だか遠い昔みたい。 「ソラ、お前が折れたら終わりだろ」 「そうだよ。産むのを阻止できないなら、魔獣は消さなきゃ」  今は特に騒ぎになんてなってないけど、最初の魔獣はアティベンティスに送られたって言う。そしてその魔獣はアティベンティスを滅ぼす為の兵器。 「アッ君がこれ以上傷つかないようにやれることはまだあるでしょ」  お兄ちゃんの話しでは魔獣が出てくるまで2週間。3日経った今日までアサギには何の変化もない。ちょっと変化があったとしたらハピカの事。最後まで俺への言い訳を叫んでたらしい彼女がどうなったかは興味がない。  いくら師匠でも殺してないとは思うけど……、追放したのか何なのか。とりあえずあの日から一切見ない。  でもそれでいい。見たらきっと俺は殺してる。 「アサギ、見て」  今日は祭りの日。ヒトハのみんなにも楽しんでもらおうと思って急遽ささやかながら祭りをすることになった。  起案者?……うちの親父でした。元々祭り好きだし。てゆーかヒトハのみなさん親父のノリに若干引いてた。  そんな事より。アサギはこういう賑やかなの好きなんじゃないかな。アクセロスでも旅芸人にウキウキしてたし。お兄ちゃんがここにいる間のアサギの様子を聞きたがってたから、ここでの話ししたらすごく驚いて……それから嬉しそうにしてた。  アサギがいつも笑ってた事、すっごい嬉しかったんだって。センティスでは心からの笑顔なんかあんまり見られなかったから。 「可愛い息子よーッ!!」  突如背後から雄叫びが響く。俺は咄嗟に回し蹴りを放って、ついでにさらなる追撃で飛び蹴りを。ぶっとんだ所に魔弾乱射をお見舞いしてしまいました。 「……、さ、じゃあ行こうかアサギ」 「待て待て待てーぃ!!久々に会ったパパに何か言うことはないのか息子よ!てゆーかお前今咄嗟に、とか言いながら明らかにパパの命狙ったよね!?」 「あー、聞こえない聞こえない」 「何でそうゆー事言うの!?パパ嫌い!?反抗期なの!?パパのパンツと一緒に洗わないでよ!とか言うの!?ソラ君、パパをちゃんと見て答えてーッ!!」  幻聴だ幻聴。  てゆーかこうして聞いてると……俺もしかして割りと親父の口調うつってる……?やだやだ!気を付けよう。 「さーて、どこから見ようか」 「ソラ君パパを無視しないで!!」  無視だ、無視。だって幻聴だもん。こんなんがここのトップとか……何かちょっと色々不安だし。まあ兄貴がマトモだからいいけど。 「あ!ねえねえ、ソラ君!この子がソラ君の恋人!?」  車椅子の前に回り込んだ親父がアサギを見て目を輝かせる。  轢いてやろうか……。 「可愛いねえ」  よしよし、って頭撫でる親父の手を叩き落とす。 「勝手に触んな!」 「何でー!!」 「バカが伝染る!」 「伝染んないよ!伝染るならサカキ君もバカだもん!」  ええ、ええ。兄貴はいつでも冷静沈着マイペースですとも。バカの子とは思えない天才肌。むしろバカの部分を俺に擦り付けたんじゃねーのかって疑うよ、全く……。  まあ別にこんなノリじゃなけりゃそれなりにキチンとした親父じゃないかと思うけど。じゃなきゃ疾うにステュクスは内乱が起きてるだろうし。 「とりあえず話はアヤ君達から聞いたよ」 「……明日には移動する。あんたに迷惑はかけねえよ」  お兄ちゃんに確認した情報と魔物学者からの情報、野性動物からの情報から併せて、産まれた瞬間が最も弱いって結論が出た。  生まれ落ちたその瞬間に2番目の魔獣を消す。でもその時に万が一相手に抵抗されたら困るから人里離れた場所まで移動する事になってる。 「済んだらちゃんと戻っておいでね。傭兵してても、ここはソラ君の家なんだから」  もちろん未来のお嫁さんと一緒にー!なんてどさくさに抱きつく親父の横っ面を叩いて、踏んづけてケイ達と合流すべく歩き出した。

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