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第14話 カツキ
「ちょっとどうなってんのこれ!」
「俺に聞くな!」
センが咄嗟に魔法障壁張って防御しなかったら死んでたよ!障壁に阻まれた触手が見えない壁に吸い付き、次いで叩く。
『ギッ……ギチギチ……』
「あの魔獣だ……!!」
突如部屋の隅から、まるで水が流れ込んでくるみたいに滲み出てきて威嚇の声をあげるのは見たことない魔獣。でもお兄ちゃんの一言でそいつが“父”だって知る。だったらこいつの狙いはアサギ。絶対渡すもんか!
「室内じゃ不利だ!外にぶっ飛ばせ!!」
「了解!」
師匠ごめん、アジトぶっ飛んじゃったけど許してね。ぶっ飛ばしたのはセンだけど。
『ヴルルルル……』
獣じみた低い唸りをあげ、井戸から出てくる髪の長い誰かみたいに触手が蠢く。
「っとに、何もこんな時に来なくてもいいだろうが!お前まさかカツキに飼われてんじゃないだろうなぁ!」
って言いつつ、まさかホントに飼われてたりして。と思わなくもない。真相はわかんないけど。
「大体!これ以上アサギに負担かけたらあいつ死ぬんだぞ!お前それでいいのかよ!!」
「そんなもんわかるわけねぇだろ!来るぞ!!」
硬化した触手がたった今俺が飛び退いた地面を貫く。着地した瞬間別の触手が目の前に迫ってて何とか体を捻った。
「ソラ!」
間一髪、センの叫びを聞きながらスレスレで避けた触手が頭上を通過。また無理矢理ねじ曲げた体の一寸横を触手が横切る。チラッと見ればケイも似たような状況で、センはお兄ちゃんとアサギを守るのに障壁張ってて動けない。
あれ、結構ピンチじゃねこれ。
試しに撃った鉛の弾丸はその柔らかい皮膚(?)を貫けず、うにょんって跳ね返されるし。
「ちょっとぉぉ!?この人どうやってお帰りいただいたらいいのぉぉ!?」
「スライム系に物理効かねえよ!」
学習しろバカ!って言うケイも襲ってくる触手に集中できなくてなかなか魔法攻撃出来ないでいる。
魔弾に切り換えたくても俺もまた集中できない。避けるので精一杯。せめてセンが動けたら。って、思ってたら。凄まじい業火が飛んで来た。
「おわぁぁぁ!?」
狙われた!?俺今狙われた!?誰に!?
「ご、ごめんよ。貴方を狙うつもりではなかったんだけど……」
センかと思ったらまさかのお兄ちゃん!?弟さんにキスしたからですか!?本当は怒ってるんですか!?ちょっと髪の毛焦げたんだけど!
『ケ、ル、ルルル……』
警戒音みたいなのを発しながら距離を取る魔獣の触手が何本か焼け爛れてる。
おぉ、ホントに魔法は効果覿面だな。
「貴方が悪いのではないかも知れないけれど、弟を傷付けた報いは受けてもらうよ」
…俺に言ってるんじゃないよね?ないよね!?
「戦う訓練をしたわけではないから上手く当てられないかも知れないけど……」
そう言うお兄ちゃんの右目がユラユラ水色の燐光を帯びてる。そうだった、お兄ちゃんもヒトハ。魔力は俺達以上だ。しかも片目でこの威力。両目揃ってたら俺死んでたかも。
『ギッ、ギッ……』
怯んだようにジリジリ下がる魔獣を見てケイが叫んだ。
「逃がすな!」
そうだ、ここで逃がしたらこいつはきっとお兄ちゃんという天敵を認識してしまう。そうなったら何とか隙をついてお兄ちゃんを殺すかアサギを奪うかするだろう。四六時中アサギに張り付いてたっていつか隙は出来る。だから絶対ここで仕留めないと。
「俺達が足止めする!仕留めろ!」
「セン!障壁は解くなよ!!」
一瞬でもアサギを無防備にしたらこいつはきっとアサギを奪って逃げる。どこからともなく滲み出るような奴だぞ。油断は禁物だ。
「お前に感情があるかないかわかんねーけど、これ以上アサギを苦しめんじゃねーよッ!!」
『ヴルルルル、ギッ、ルルルル……』
逃げようとする魔獣の進行方向を邪魔して、地面に潜ろうとするのを阻止して。今だ、って思った瞬間。
「――――ッ!?」
「ソラッ!!」
体を押されたような衝撃と何だかゴリッてゆーかブチッてゆーか、すっげえ不穏な音がして。
あれ、何か手に力入んない。持ってられなくて手から銃が落ちた。何?これ……。
「そろそろ俺のヒトハを返してくれるかい?」
腹部を貫通した刃からはポタポタと俺の血が滴って。折角追い詰めたのに魔獣は地面に溶け込んでしまう。
「……っ、て、め……ッ!!」
俺の背後には何時の間にやら胡散臭い微笑みを浮かべたカツキが立っていた。
お兄ちゃんが息を飲む。
ケイは動けない。
センはどうしていいかわからない顔で障壁を張り続ける。
「どう、やって……、アティベンティス、来れたんだよ……っ」
何かの間違いかと思ってたのに、目の前に出てこられたんじゃ疑う余地もない。
「知りたいかい?」
答えが得られる前にお兄ちゃんの炎が俺とカツキを分断。刃が抜けてちょっと洒落にならない血が噴き出す。ヤバイ、ヤバイってこれ。
唯一治癒魔法が使えるセンはカツキの視線がアサギに向いた所為で益々動けない。こんなとこで終わるなんて嫌だ、死んでたまるか。
「く、……っ」
なのに。
足から力が抜ける。支えようとした腕にもすでに力が入んなくてそのまま地面とキスする羽目になった。
「可哀想に、もう長く無さそうだね。トドメを刺してあげようか」
くすくす笑う声が真上から。
「ソラッ!!」
珍しく切羽詰まった声はケイのもの。
「駄目だ!」
お兄ちゃんが放った業火にまたカツキが飛び退いた。お兄ちゃんはそのままアサギに駆け寄ってその体を抱き締める。アサギをお兄ちゃんに任せたセンが直ぐ様治療を始めてくれて、痛みはあっという間に薄れてその間にケイが俺達とカツキの間に立ち塞がった。
「俺に勝てるつもりかい?」
「勝ち負けは関係ねえ。俺の役目は守ることだからな」
「それでこそ俺の弟子!」
場違いに明るい声と共に飛んできた氷を避けたカツキが、僅かな微笑を浮かべて見つめた先に。
「カナト……!」
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