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第18話 神の宝物庫

 殴られた後ろ頭をさすりつつ現在お空の上。間違っても死んだ訳じゃないから!  光の柱とやらに向かわないと、ってなった時ふとアオの背中に乗れば早くね?って話しになった。ついでに師匠に頼んでカッツを連れ出して。アオの背中に俺とアサギとお兄ちゃんとカナさん。4人乗っても平気とかおっきい方はホントにデカイ。  で、ケイとセンは鳥形態のカッツに乗ってる。カッツはついに乗り物扱いか!って文句垂れてたけど。 「あそこです!」  アサギが指をさした方向。 「え、あれって……」  あの湿地にある大穴だ!でも何で?あそこは一度アサギと行ってるのに……。 『キュォォォン!』  アオが一声鳴いて急降下。  うわわわ、怖ぇぇぇ!!落ちそぉぉぉ!!軽いアサギが飛んでっちゃうんじゃないかと思って体を引き寄せて抱き締める。チラッと見たらカナさんもお兄ちゃん抱き締めて支えてた。 「アオ、落ちちゃいます!スピード落として!」  風に負けないように張り上げたアサギの声が聞こえたのか、アオの速度が緩かになってホッと一息。 「大穴の底、か?」  カナさんの呟きに見上げたお空は遥か遠く。カッツも何だかまだ遠い。濁流の音に目線を下げれば地下水脈。 「ほぇー、大穴の底ってこんなだったんだ……」  こりゃカツキが先に来ても降りれなかったんじゃね??やっぱ相当深いわ、ここ。 「アサギ、道はわかる?」 「はい。奥に光が続いてます」  俺達には何も見えないけどアサギは奥を見据えてる。 「ん?洞窟??」  アサギが指示した方向にアオが近付いて気付く。真っ黒な穴が口を開けてた。 「真っ暗だな……」  アオの羽ばたく音が洞窟に反響して、どこかでバサバサと蝙蝠が飛び立つ音がする。大きなアオが飛べるくらいだから結構な広さの洞窟。真っ暗で何も見えないけど、アオは見えてんのか??  まさか見えてないのに飛んでるとかないよな?あり得そうで怖いんだけど。そんな不安は口にしたらホントになりそうで怖いから置いといて。 「あれ?」  ふと気付く。真っ黒、って思ってたのにほんわか明るくなってきた。 「何……??」 「壁、……石が光ってる、のかな?」  お兄ちゃんに言われて良く見ると確かに壁の一部が光ってる。何て言うか、ホワホワ~、みたいな光り方。 「蛍石かの?」  背後からカッツの声が。アオの急降下に一瞬置いてけぼりになってたけど追い付いて来たみたい。 「蛍石?」 「鉱石だ。今では殆んど取れんからかなり稀少な物でな」  何に反応するかは謎のままだけど、何かに反応して暗闇で光るのだそうだ。ホワ~、ホワ~、って光るのを不思議な気持ちで眺めてたら視界に何か飛び込んできた。 「ん?」 「壁画か……?」  カナさんも気付いたらしくて、その声につられてみんなキョロキョロしてる。 「ホントだ……。でも暗くてよく見えないね」  センの台詞に確かに、って頷いた時アサギが 「あ」  って小さく呟いた。 「どした?」 「……降りるところがあります」  あ、ホントだ。何か床と柱っぽいのがうっすら見える。てことは、もしかしてここが……。 「神の宝物庫……?」  ブーツごしでも感じる床石の冷たさに一瞬身震いして辺りを見回した。崩れ落ちたのか元からなのか、天井はない。奥の柱より向こうは床もなくて濁流が凄まじい音をたてている。 「……祭壇ぽくね?」 「確かに……」  ステュクスにある神殿の遺跡に似たような祭壇があった筈だ。 「……何か書いてあるな」  壁を調べてたカナさんが呟いて、長年の間に蓄積した埃を払う。 「……古代文字だね」  カナさんの手元を覗き込んだお兄ちゃんが言って、近くの壁を同じように擦った。 「こっちにも」 「……つーかこれ、壁画ここまで続いてんじゃねぇの?」  パッと明かりが灯る。ケイが灯した簡易ランプの明かりは壁一面に描かれた壁画を浮かび上がらせた。カッツを見張りに残し、ちっちゃくなったアオを抱いたアサギがやって来て 「……あれは何でしょう……?」  なんて言いながら祭壇に向かって行くのを慌てて追いかける。 「待って待って!何があるかわかんないから!!」  神の宝物庫って言うからには盗掘者避けの罠とかありそうだし。警戒して近付いた祭壇にはとりあえず罠らしきものはない。代わりに何だか箱のようなものがポツンと1つ。 「何だこれ」  拳でコンコン、って叩いても反応なし。首を傾げたアサギが真似してコンコンするけど特に変わらず。あ、アオまでちっちゃな手でカツカツ叩いてる。ヤバイ、不覚にも癒されてしまったチクショウ。 「あれ……?何か文字が……」  言いながら手を翳したアサギに待ったをかけるけど時遅く滑らかなお手々がその文字とやらに触れちゃった。セオリー通りに行けばこれって何か起きちゃうパターンじゃねぇの!?なーんて思ったら案の定!箱上部から上に向かって帯状に光が伸びる。 「わわ!何!?」  驚いて固まるアサギを姫抱きに皆の所まで下がった。 「何だ?」  ケイ君はホントにいつでも冷静です。  驚いて逃げちゃったけど光は攻撃してくるわけでもなくそのまま若干扇状に広がる。ジジ……ッ、……ジ……ッ、みたいなノイズ音を響かせて。  皆が見守る中、光の中に影が浮かび上がった。全員武器に手をかけるけど、影が揺らいで聞こえてきたのはそれはそれは綺麗な……、いや、綺麗だったであろう旋律だ。長年放置されてた所為か所々聞き取りにくなってる。でも、これ……。この声何か聞いたことあるような……。 (あの時の……?)  そうだ、アサギと洞窟で過ごした時どっかから聞こえた女の人の声だ!しかもこの曲調はお兄ちゃんが竪琴で弾いてたやつじゃん。 「この歌……ヒトハに伝わるルシオンの子守唄です」 「しかもこれは……センティスの技術……?」  お兄ちゃんの台詞に、どゆこと?ってカナさんを見上げた。映像を記録して立体的に映し出す装置。でもそれはまだ開発段階でカナさん達も話しに聞いただけ、本物は見たことがないらしい。 「でもこれ相当古そうに見えるよ」  近寄っても害はなさそうだと判断したセンが装置を調べて言う。 「……確かヒトハはセンティスに移住したんだよな。って事はまだヒトハ弾圧が始まる前に技術を伝えたんじゃねぇの?」 「あ~、成る程な。でも全部伝える前に弾圧が始まって、そのままになっちゃった、と。んで過去の文献見て今の技術で作ろうとしてるって事か」 「珍しく頭使ったな」 「ちょっとカナさん!?」  何でみんなチョイチョイ俺を苛めるの!?って拗ねてたら立体映像の声に合わせて、澄んだ綺麗な声が。俺詩的じゃないから何て言い表していいかわかんないけど、山の泉の湧水みたいな?とにかく透明感がある歌声。  アサギが立体映像に合わせて歌ってた。つられて口ずさんじゃった、みたいな感じの小さな声なのに洞窟の中だから良く響く。 「え……」  呟いたのは誰かわかんない。全員だったかもしんないし、幻聴だったのかも。でもアサギの声に合わせてユラユラ揺れる燐光は幻でもなんでもない。そうだ、アサギの魔力は声に宿るんだった。だけど自分で声に乗せないと発動しない筈の魔力が滲み出てるのは何で?  そう、不思議に思った瞬間。 「うわ!?」 「え!?何!?」  ゴリゴリととてつもなく重たい音をさせながら祭壇の後ろの壁が動き出す。上から降り注いでくる小石と砂埃に噎せ、洞窟が崩れるんじゃないかって恐怖にアサギとアオを胸に抱いた。  まぁ、結果崩れなかったんですが。 「……壁、画……??」  奥に続く道でも出てくるのかと思ったらスライドした石の向こうには新たな壁画。 「……密封状態だったのかな?他のに比べたら鮮やかだね」  センの言う通り、確かに明かりに透かしてもよく見えない他の物より全然綺麗だ。 「……これは……」  2つの丸と、その2つを繋ぐように線が4四本。下にも他のと同じような古代文字?が。 「……誰かこれ読める人~」  当然ながら誰も手を挙げない。でも手を挙げてくんなかったけど、壁画に近寄ったお兄ちゃんが 「“ルシオン”、“星”……」  って呟いた。 「読めるのか?」 「その2つしか読めないよ」  カナさんに問われて首を振る。 「……こっちは何だ?」  人間?みたいな絵。そんなのが点々と続いて最後の絵は。 「気の所為、かなぁ。何かこれ2つがぶつかったみたいに見えるんだけど」  2つの丸がぶつかってる感じの絵。でも良く見たら間に例の人間みたいなのが一体。 「……これをビバルティアに当てはめたら……」  呟いたのはお兄ちゃん。星、って単語が入ってるなら可能性は高い。センティスとアティベンティスが全く違う星同士だったとしたら。この丸が2つの世界で、間の線が2つを繋ぐワープ装置?にしては…… 「線が4つもある上にどちらにも届いてないのは解せないな」  俺の心を代弁した声はここで聞こえる筈のない声だった。全員驚いて振り返る。 「カツキ……ッ!」  無意識にアサギを背後に庇いながら声をあげた。しかも横のおっさんってもしかして皇帝?つか何でいんの!?カッツは!?てゆーかアサギも反応しなかったって事は気配すらなかったって事だろ!? 『キュイ!フー!!』  怯えるアサギに気付いたか、アオが威嚇の声をあげる。 「その子は……、あぁ魔獣の子か。いつまで待っても姿を現さないと思っていたら懐柔されていたとはね」  流石は“母親”といった所か?なんてカツキが笑う。腹立つな!無理矢理孕ませて産ませておいてアサギの苦悩も知らないで!! 「この子ももう貴方の思う通りには動きません」  ちょっと震えてたけどアサギは凛として言い放った。 「弟がこの調子では、リツも素直に戻るつもりはないのであろうな」  威圧感のある声が響きお兄ちゃんはビクリとカナさんに縋る。つーか待てよ。そんなことより他にあるだろ。カナさんには何も言わねぇのかよ。実の親子だろ! 「まあ良い。他を殺し連れ帰るまでよ」  結局皇帝はカナさんに声をかける事なくそう言い放った。 「……させるわけねぇだろ」  カナさんも特に声をかけることなく剣に氷を宿らせる。それに合わせてケイもイブに氷を宿らせた。 「落ち着け」  一触即発な雰囲気を破ったのはカツキ。唇に歪んだ笑みが浮かんでる。何だよその何か企んでます、な顔は! 「どうやらここが神の宝物庫のようですよ、父上」 「何、ここが?」  武器構える俺達なんて放置してカツキが辺りを見回しながら言う。 「……創世時代の遺物だな。歴史学者が喜びそうだ」  立体映像のルシオンは代わらず途切れ途切れに子守唄を歌い続けていて、カツキはそれに目を留めた後さらに背後の壁画に近付いた。 「……なるほどな」  …何が?え?何がなるほど??この人何言ってんの? 「神の宝物とは良く言ったものだ」 「あの~、もしもし?それはどういった事でしょうか?」  好奇心に負けました。だって気になるじゃん!知りたいじゃん!! 「……この線は2つを支える柱」  カツキの指が線を辿る。 「いつか訪れる最後の日の為、ここにこれを記す」  もしかして古代文字読めるのか? 「創始ルシオンは2つの星の衝突を防ぐ為壁と柱を作った」  それはぶつかってくる星の軌道を変えることが出来なかったから。ルシオンの魔力で2つの星の間に壁を作ってもまだ引力には敵わなくて、かつてのヒトハの魔力の結晶を埋め込んだ柱がさらにその壁を支える役目を果たした。 「魔力は永遠ではない。いずれは底を付き、2つの星の衝突を招く……。……回避する方法は……そこから先は読めないな」  何ですと!?お前!金入れなきゃ観せてもらえないAVか!半端に終わるな!モヤモヤする!! 「……神の宝物というのは……」  皇帝の言葉に肩を竦める。 「つまり世界の救い方、だったと言うことでしょうね」  そんだけでアサギ達捕まえてたとかバッカじゃねぇの!いや、でもバカが神の宝物庫探ししてなかったらここには辿り着けてないか。星が衝突するってなんだよ。 「長い年月の間に伝承が変わってしまったようだが、真実はここに記されている通りなんだろうね」  で、ヒトハはセンティスに移住したからその後の事は当然書かれてないと思われる。読めないから……多分。 「でも何でわざわざ移住したんだ?」  その時点では星の衝突を避けられたって事だろ?別に移住しなくても良かったんじゃね? 「……科学は元々アティベンティスの技術だった」  星の衝突を招いたのはアティベンティスの技術だったらしい。だからヒトハはそれ以上発展させないようにその技術毎センティスに移住した。結果待ってたのは迫害と裏切りと科学発展っていう同じ過ち。それでもヒトハはアティベンティスに世界を救う術を残した。もしかしたらセンティスにも残してるかもしれない。  いや、肝心の救う術がわかんねーけど。 「そういうわけですよ、父上」 「何と興醒めな事よ。まあしかしリツを連れ帰る事が出来ると思えば良いか」 「させねぇって言ってんだろ」  今度こそ武器を構え交戦に入る、かと思えばいきなりカツキが笑い出した。え、何この人。大丈夫?残念すぎて頭に花咲いちゃった?? 「ええ、全く興醒めですね。わざわざ空間を繋いで後を追いかけたと言うのに」  なるほど、それがカッツにもアサギにも気付かれずにここへ来られた理由か。もしかしてあのセンティス軍もそういう事か?純血って事はそんくらいの魔力はありそうだよな。 「もう良い、カツキ。奴等を殺せ」 「……喜びにうち震えてる瞬間が一番良かったんですが。本当に残念ですよ、父上」  ニッコリと――こっちに背中向けてるからわかんねーけど、声質的に――笑ったカツキの刃は真っ直ぐ、皇帝に降り下ろされた。 「え!?」  ちょっと何々!?何が起こってんの!?ホントにこいつ絡むと毎回混乱するんですけど!そして毎回みんな展開についてこれなくてポカーンなんですけど! 「俺はね、父上。この瞬間をずっと待っていたんですよ」 「き、さま……っ、何故……!」 「なかなか宝物庫は見つからないし、毎日退屈でしたが」  それでも退屈しのぎにアサギがいた、と笑う。背中に縋りついてるアサギの指先にギュ、っと力が籠った。文句を言ってやりたい。でもカツキは血を吐く皇帝の髪をつかんで引き摺っていく。 「何、する気だ……?」 「これで俺はようやく退屈な日々から解放される」  最後に振り返ったカツキはアサギを見た。 「もう少しお前で遊びたかったけどね、俺の可愛いヒトハ」  お前の答えは聞けないな、なんて微笑んで。 「カツキ……っ!!」  後ろへ一歩踏み出した先に、床はない。 「カツキ!!」  皇帝の悲鳴を残し、二人の姿はあっという間に濁流へと消えた。  

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