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第2話
矢田は動揺と緊張でばくばくする心臓を押さえつけながらフロントで受付を済ませ、エレベーターに乗り込む。
六階に到着するまでの短い間でも喉がからからに渇いてしまっているのに対し、部長は涼しい顔をしている。
本当にこの人、俺に抱かれる気があるのか――弱みを握られて、仕事でいいように扱われてしまうんだろうかと不安が一瞬頭をよぎったが、部屋に着いた途端ドアが閉まりきらないうちに熱烈な口づけをされ、先程までの問答は矢田の取り越し苦労だったと思い知った。
いつの間にか矢田は胸筋を触られていて、くすぐったさに身をよじると、部長は満足げに笑った。
「んっ……ふふ、矢田くん、思った通りいい身体してるね……」
「ちょ、オヤジ臭いですよ部長」
「え!?そうかな、まだ三十八なんだけどなあ……」
「俺と十歳は違うじゃないですか」
矢田がそう言うと部長はええ、とかまあそれは本当なんだけど、とか、でも僕若く見えるでしょ?とかあれこれ話しかけてきたため、面倒になった矢田が深いキスをする。
はじめは何か言いたそうに少し身を捩っていた部長だったが、矢田の舌が口内を暴れ回るとともにだんだんと大人しくなっていった。
「あの、矢田くん」
「なんですか」
「シャワー浴びてきていい?」
「……どうぞ。後で俺も浴びます」
どこまでも自由な部長に若干呆れつつ、仕事をしている時の彼とのギャップに驚かされる。
気遣いができて、仕事も早く、自分のことより相手を優先するような男が俺に対しては謎のわがままを言うようになっている。
ゲイという共通点があるから、オープンになっているだけなんだろうな……と分析を始めた矢田の目に、信じられない光景が飛び込む。
「ちょ、ちょっと、部長」
「んん?」
「脱ぐなら風呂場で脱いでくださいよ」
「まったくキミも鈍いなあ……興奮とかしないの」
正直、ドキッとした。ただそれを部長に知られるのがなんとなく嫌だった矢田がそっぽを向くと、部長は何も言わずに風呂場へと入っていった。
「ヤバい、部長のこと抱けるどころか、マジでエロく見える……どうしよう」
矢田の呟きは部長のシャワーの音でかき消され、部長のもとへと届くことはなかった。
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