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第3話

 程なくして部長が風呂場から出てくる。バスタオルを腰に巻いて、今まで着ていたスーツを手に持っていた。  それをハンガーにかけながら「キミもシャワー浴びるんだろう」となんでもないように言われ、ああこの人本当に慣れている人なんだなあと感じた矢田は部長がスーツをかけている横からハンガーを持って風呂場のドアを少し乱暴に閉めた。  適当な場所にハンガーをぶら下げ、スーツから下着に至るまでをそこにかける。  未だ湿り気の残るユニットバスの風呂桶に入り、シャワーカーテンを閉める。シャワーの栓を捻ると、先程まで部長が使っていたからか丁度いい温度の湯が矢田の身体に当たった。  居酒屋特有の香りを消し去るように身体を洗い、なんとなく下半身は念入りに清める。  冷静になった矢田は、ローションやスキンの準備をしていなかったことに気付いて、こんなことなら途中でドラッグストアへ寄ればよかったと後悔した。  仕方がない、今からでもいいから部長に言ってその二つを買いに行くか……と思いながら矢田が風呂場から出ると、ビジネスホテル備え付けのロングシャツタイプのパジャマを羽織っている部長がベッドに横たわっていた。 「あの、部長」 「ん?」 「えっと、その――」  言い終わる前にサイドボードに目をやると、個包装タイプのローションが複数個とサイズ違いのスキンの箱が二つ置かれていた。 「……部長」 「どうしたの、矢田くん」 「本当に俺に抱かれるつもりで今日、こんなの鞄に入れてきたんですか」 「そうだよ?だから、早く来てよ……湯冷めしちゃうだろ」  感情の読めない顔で笑った部長に、心の中で舌打ちをしながらベッドの上へ乗る。  ぎし、という安っぽいスプリングの音が、これほどまでに情欲をそそる音になるなんて、矢田は今日まで知らなかった。

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