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第14話

 次の日、なるべく見た目を整えて五分前に指定された場所へ到着したら、矢田は既に待っていた。  大きめの白いTシャツと黒の細身のズボンというシンプルな組み合わせなのにやたらと目立って見えるのは、この男の顔がいいせいだろう。  性格はあんな感じだが、見た目はやはり好みだ――と思っていると、こちらに気づいた矢田が手を振った。 「長谷部長、やっぱ遊んでるだけあってお洒落ですね。黒のワイシャツ、似合ってますよ」 「遊んでいるという点に関しては、君にだけは言われたくないね……で、どこのホテルへ行くんだい」 「それはそれとして、その前にちょっと遊びません?」 「は?」  さあ行きますよ、と歩き始めた矢田の後ろをついていき、追いついた長谷は隣へ並ぶ。  確か矢田くんは、僕のことをセフレと言ったよな……?僕が認識しているセフレの感覚だと、ホテルへ行く前に遊んだりとかしないんだけどな……  そうやって悶々としていると、いつの間にか前を歩いていた矢田が、ある建物の中へ入っていったので慌てて追いかける。  自動ドアをくぐると、音の暴力といって差し支えないような大音量が長谷の耳に飛び込んできた。 「矢田くん、ここは……?」 「ゲーセンですけど」 「いや、それはわかるんだけど、なんで?」 「部長はこういうとこで遊んだことないんじゃないかと思ったんで、興味本位って感じですかね」  君だって会社での雰囲気だけを見ると、こういう場所へ行くようなイメージには見えないじゃないか、という言葉を飲み込んで、つかつかと歩いていく矢田に着いていくと、二人で対戦できるタイプのレースゲームの筐体へ座るよう促される。 「操作説明はちゃんと出るから安心して下さいね」 「え、僕もやるのかい」 「当たり前じゃないですか」  どこまでも読めない男の欲求に、しぶしぶ従うと二人分のコインを矢田が入れる。  こういったゲームが初めてな上に混乱している長谷はNPCにすら追い抜かれ、上位に食い込むことはなかったが最下位にはならなかったのでほっと胸を撫で下ろした。 「へえ、上手いじゃないですが」 「そうかな……それはどうも。で、ホテルはどうするんだい」 「あー……後で行くからとりあえずこっち来てくださいよ。てか、そんなにすぐしたいんですか?俺のテクにハマっちゃったとか?」 「そ、そんなわけ……!」  セックスをするためだけの関係の男とホテル以外で会うことがなかった長谷は、戸惑いながらも矢田についていく。  矢田に自然と握られた手が、気にならないぐらい戸惑いの気持ちのほうが勝っていた。

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