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第17話

 何色にも光るLEDと、それを際立たせるような泡に見とれていた長谷はしばらく浮いては消える空気の玉を見つめていた。  その様子を向かいで満足気に見ていた矢田が、にまにまと緩んだ口を開いた。 「部長、こういうことするの久しぶりなんじゃないですか?」 「……まあ、ね」 「俺、セフレにも優しーんでこれからはセックス以外でも楽しませてあげますよ」  にっと口角を吊り上げる矢田を、長谷はよくわからないものを見るような表情で見つめ返す。  それに気づいているのか気づいていないのか読めない顔で、矢田は続ける。 「正直俺、部長のこと苦手だったんですよね」 (――知ってる、それであの晩からかってみた) 「でも、抱いたら相性もいいし、なんか妙に可愛く見えたんで、セフレになりたいなと思ったんですよ」  そこでセフレという結論に行き着くのが彼らしいなと思いつつもため息をごまかすために口元を湯に沈める。 「あれ、照れちゃいました?」  矢田の言葉に長谷はかぶりを振ると、彼はふうん、と特に気にしてなさそうな返事をして頬杖をついた。  しばらくぎらつく光を眺めていると、長谷が何かを思い出した様子で長谷に話しかける。 「あ、そうだ。今日は慣らすのからやらせてくださいね」  驚いた長谷は湯に沈めていた口を出して、眉間にしわを寄せながら答えた。 「別にそのぐらい、自分でやるからいい」 「いや、俺がやりたいんですって。自分の手で相手をどろどろにしたいタイプなんですよ、俺」 「しかし……」 「嫌って言うならあの写真――」 「わかった、わかったから……」 「はは、冗談ですって」  笑いかける矢田の瞳が、妙に甘ったるく見えた長谷は、ふたたび口元を湯に沈める。  もう若くない自分にその糖度は身体に毒だと感じながら、矢田の鼻歌を聞き流していた。  身体を洗い終え、取り急ぎバスローブを身に纏う。すぐ脱ぐことはお互い分かっていたが、裸のままベッドへ行くほど気が知れた関係でもないからだった。 「部長。やっぱ今日、キスもしていいですか」 「……それも前戯の一部ってことかい」 「相変わらず察しがよくて助かります」  ベッドの上で向かい合って座り、触れるだけのキスからだんだんと深いものに変わっていく。  その時の若干の息苦しさが、まるで先ほどのジャグジーで溺れて自分も泡の一部となって消えていってしまうようなそれに感じられて、自覚のない胸の痛みに襲われた長谷は矢田のバスローブの端をきゅ、と掴んだ。

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