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第19話

 心臓がどくどくとうるさい。その音を矢田に聞かれてしまったらと思うと長谷は気が気ではなくなってしまい、ベッドの真横にある大きな鏡へ視線を移した。  自分の身体に、矢田がどこか愛しさを感じる唇で吸い付いている。胸の尖りを名残惜しそうに吸った後、舌がうすく残っている腹筋の筋を伝って、臍に辿り着いた。  回数こそ多くはないものの、長谷がアプリを使って若い子と会うときは、自分がエスコートしてリードする側ばかりで、長谷自身も騎乗位の状態で下で喘ぎながらもスキン越しに射精する若者を見るのが好きだった。  ところが今の自分は矢田に押し倒されて、身体の至る所を暴かれて、そして何故か、自分自身も嫌ではなさそうな表情をしていて――  その感情が何なのか、薄々感づいてはいたが絶対に矢田に伝えてはならないことも分かっていたため、心の奥底に沈み込ませる。  目を閉じてから本物の矢田に視線を戻すと、彼は長谷の陰毛を愛しそうに愛でてから、その下の陰茎を咥え込んだ。 「ちょっ……!」 「あれ……もしかして部長、フェラ嫌いですか?」 「嫌い、ではないが……」 「ならいいじゃないですか」  再度口に含まれた亀頭が、あたたかくてざりざりとした舌で撫で回される。数年ぶりに感じる刺激にびくつきながら、長谷は声を上ずらせる。 「久しぶりで……その、慣れてないから……」 「……へえ」 「っち、違う、今までは、僕がリードして……っあ!」 「他の男の話、今ここでします?親しきセフレに礼儀ありですよ、部長」 「ばか、何を言っているんだ、きみは……」  はいはい馬鹿ですよ、とため息をつきながらフェラチオを再開した矢田を、長谷は物珍しそうに見つめる。  人の陰茎なんて絶対に咥えなさそうな形の整った唇が、自分のものを美味しそうに咥えてじゅぽじゅぽと音を立てている。  こんなの視覚の暴力だ、と思い鏡とは反対側の方へ目を逸らすと、ソファーに置かれた熊の背中が視界に入る。  心臓がつきりと痛んだ長谷が目を伏せると、責めるようにカリの溝を甘噛みされた。 「っ……!!」 「ちゃんと見ててくださいよ。俺、めちゃくちゃ奉仕してるんですから」 「う、う……」 「はは、その顔最高。もっとどろどろになってもいいんですよ、譲さん」  何故今このタイミングで下の名前を呼ぶのか、どうせ彼なりのテクニックだろうというのは見当はつくが、それでもそれに反応してしまった自分自身を情けなく思った長谷は、ため息と気づかれないように息を吐く。  長谷の顔を見ると目が合い、にやりと笑ったあとに見せつけるように裏筋を下から上まで舐め上げられた。

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