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第25話
少し時間を置いて回復した長谷とそれを見守っていた矢田は一緒にシャワーを浴び、長谷がチェックアウトのための身支度をするために下着に手を伸ばすと矢田に制止される。
「矢田くん。もう一回というのはさすがに無理だぞ」
「それはわかってますよ。ここのラブホ、ご飯が美味しいんですよね」
「はあ……?」
「で、部長は何食べます?」
当然のようにメニュー表が差し出され、少しの間迷った長谷は炒飯とハイボールを指さした。
へえ、いいチョイスですねえなんて言いながらフロントに電話をかけた矢田は、カツカレーとビールを頼んでいた。
アプリで会った子たちと食事をする際は、レストランを予約していたような長谷にとってラブホテルというものは、セックスをしたらすぐ出ていくようなもので、中で楽しむという発想はまるでなかった。
矢田といるとこの年齢でも沢山の「はじめて」を沢山与えられ、少々刺激が強い。
これは自分だけじゃなくて他のセフレにもしていることなんだ……と長谷が言い聞かせていると、ごそごそとした物音のあとに部屋の呼び鈴が鳴る。
どうしようかと服を掴むと、いつの間にか服を着ていた矢田が入り口部分の小部屋に置かれた食事を取りに行く。お盆を持って戻ってきた矢田は、少し小さめのテーブルの上にお盆ごと料理を置いた。
「矢田くん、いつの間に服を」
「ん?別に着なくてもいーんですけど、部長が気にするかと思って」
気遣いまで完璧な部下に感心していると、冷めちゃうから早く食べましょうよと急かされた。
湯気の立っている炒飯にスプーンを入れ、ふうふうと息をかけて食べやすい温度まで冷ます。口に入れると叉焼や卵の旨味が舌の上に広がり、それを味わった後飲み込む。
その様子を頬杖をついて見ていた矢田が、嬉しそうににまにまとしている。
「ぼ、僕の顔に何かついているかな」
「いや?美味しそうに食べてもらえてよかったなーって」
さらりと言った後に大きな口でひとくちカレーを食べる姿に若さを感じ、自分との差を実感してしまった長谷は少しだけ胸が痛む。
それをごまかすように黙々と炒飯を食べると、何故だか最初よりも塩味が強くなったような気がして、ハイボールの強い炭酸で洗い流した。
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