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第35話
駅まで送ってくれた矢田と別れ自宅に帰ると、すぐに月曜日がやってきた。
月曜日特有の気だるい空気をかき分けながら定刻通りに出勤するなり、矢田と同期の男が話しかけてきた。
「部長、おはようございます」
「ああ……おはよう」
「昨日の朝、矢田と朝飯食べてるとこ見たんですけど、アイツと仲良かったんですね。あの組み合わせ意外でしたよ」
「え、あ、そうかな」
そうですよ、どこで仲良くなったんですか、俺も休みの日に矢田と会ったことなんかないのに、と矢継ぎ早に来る質問に答えかねていると、いつの間にか近づいてきていた矢田が後ろから男の頭を拳で小突いた。
「ってえ……!なんだ矢田かよ」
「お前な……朝イチで部長困らせてんじゃねーよ」
「別に困らせてねえし……で、なんで昨日部長と一緒にいたの」
矢田のことだから正直に言うことはないと思うが、回答次第で好奇の目が再度自分に向かってしまうのではないかとヒヤヒヤしながら矢田の答えを待つ。
「なんでって、朝散歩してたらあっちに予定あった部長と会って、流れでメシ食っただけだけど」
「ふうん、そっかー……まあ、そうだよなー」
納得したらしい部下が自分のデスクへ向かったのを見届けてから、矢田が目配せをしてウインクした。
「これ、貸しですからね」
すれ違いざまに耳元で囁かれ、肩に一瞬だけ手が添えられる。
たったそれだけのことなのに、心臓から音が出ているんじゃないかと錯覚するぐらい動き回る。
職場での接触は、あらゆる意味で心臓に悪い――
長谷は小さく息を吐いてから、デスクへと歩いていった。
週明け特有の忙しさを乗り越えたら、いつの間にか午前が終わっていた。外へ食べに行くか、と立ち上がったところで矢田がこちらへ歩いてきていた。
「……矢田くん」
「たまには一緒にご飯食べても多分誰も怪しみませんよ。またアイツになんか聞かれたら仕事の相談してたってことにしておきます」
疑問と懸念を先回りして潰された周到さに舌を巻きつつも、小さく頷くと満足そうな顔をした矢田がすたすたと歩き出したので慌ててついていく。
休日以外も一緒に過ごせることに対する嬉しさと、この関係が周りにバレてしまったらどうしようというスリルの狭間に立たされた長谷は、小さく身震いした。
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