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第42話

 ベッド脇に乱雑に置かれた箱を矢田はやや乱暴に掴み、スキンを取り出して包装を咥え、歯と手を使ってびりりと開封する。  苛立ちからなのか欲情からなのかはわからないが、明らかに普段の余裕そうな様子が崩れている矢田を見て、長谷の心の奥底に確かな満足感が満ちていく。 「恵介くん」 「なんですか」 「……僕は、セフレ以上になっても構わないと思ってるからね」 「俺は別に、セフレでいいです……セフレが、いいです」  つい本心が漏れ出てしまったが、悲しそうな矢田に拒絶の言葉を言われ、後悔と久々の失恋で長谷の心臓がずきずきと痛む。  気がつくと、その痛みが紛れるほど熱い矢田の陰茎が長谷の窄まりを押し広げていた。 「恵介くん、君は」 「譲さんは……俺なんかのものになっちゃ駄目なんです」  言葉とは裏腹に、じわじわと長谷の中に矢田が侵入してきており、挿入の際のゆるやかな快楽と胸の痛みのバランスが取れず、長谷の鼓動と呼吸が大きく乱れる。  ――俺なんかのものになっちゃ駄目だというなら、何故そんなに真っ直ぐ僕を見るんだい。  長谷は喉元まで出かかった言葉を飲み込んで、眉毛を寄せながら自らも腰を動かし、矢田自身を根元まで迎え入れる。  矢田の陰毛が尻たぶをくすぐる感覚を愛しく思いながら彼を見上げると、目の前の男は怒っているのか泣いているのかよくわからない表情をしていた。  まるで迷子の子供のようにも見えるそれを見た長谷は、上体を少しだけ起こして矢田の頬に優しく触れる。  はっとした矢田は長谷の手を握り、ゆっくりとシーツに縫い付けた。  そのまま口付けながら、何かを紛らわせるようにゆっくりと律動を開始する。 「んっ……ふ、う……」 「譲さん、ここ好きですよね」  ごり、と膨らみを擦られて長谷の身体がびくりと反応する。滲む視界が快楽からくるものなのか、心が痛むからなのか理由がわからぬまま矢田に揺さぶられる。  セックスだけする関係なんて、今まで何度もしてきたはずなのに。快楽でしか繋がらない関係だって、たくさんあったはずなのに。何故今こんなにも虚しく感じるのだろう……と長谷はぼんやり思いながら、目を閉じる。  目尻から温かい液体が一筋溢れたが、気づかないふりをした。

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