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第43話
矢田に今の様子を心配されたらどうしようと長谷は一瞬不安になったが、彼は長谷の上で目を閉じてひたすらに腰を動かし続けていた。
「……矢田くん」
「なんですか」
「君は今、誰を抱いているんだい」
「もちろん、部長ですけど」
矢田は動きをぴたりと止め、長谷の奥へと陰茎がねじ込まれる。矢田自身でぞりぞりと内壁を擦られる快楽と、体の芯まで響く気持ちよさに一瞬目を閉じたが、しっかりと矢田の方へ向き直る。
「……ごめん矢田くん。今日は、やめにしないか」
「わかりました。じゃあ帰る支度手伝いますよ」
いやにあっさりと了承した矢田は、陰茎をすぐに抜いて長谷の上から動こうとする。その腕を長谷が掴むと、矢田は不思議そうな顔をした。
「僕は帰らないよ」
「なんでですか」
「多分、君とはしっかり話をしなくてはいけない気がしてね」
「……説教ってことですか」
長谷がゆっくりとかぶりを振ると、矢田はますます混乱した表情を見せる。そして、ゆっくりと長谷の手を引き剥がした。
「部長、すみません。やっぱり今日は……帰ってくれませんか」
「また今度、改めて話をさせてくれるならいいよ」
「……それでいいですから。今日は、一人にさせてください」
俯く矢田をゆっくりと抱きしめると、驚いたらしい彼の身体が硬直する。それを解すように背中を撫でると、だんだんと腕の中の身体の力が抜けていった。
まるで怒られた子供のような表情をしている矢田の唇に軽く口づけると、何故か彼は今にも泣き出しそうな表情になった。
「これ以上……俺に期待させないでください、部長」
「……期待してて、いいんだよ。じゃあ……帰るね」
ティッシュで軽く下半身を拭き、ボクサーパンツを履いてから矢田がかけてくれたワイシャツとスーツを手早く着込む。
家に入ってきた時と何ら変わらない姿になった長谷は、寝室を出ようとドアノブを手に掛けた瞬間立ち止まり、矢田の方へ振り返る。
「ドーナツ、持って帰ってもいいかい」
「……別にいいですけど」
「今度は二人で食べようね」
答えない矢田を見て、どこか悲しそうに微笑んだ長谷は寝室から出ていく。
廊下を歩く音と紙袋を拾う音がした後、玄関ドアが静かに閉められた気配がした。
矢田はその間微動だにしなかったが、大きく息を吐いてからベッドへ仰向けに転がった。
「……譲さんは、俺なんかの恋人になっちゃだめなんですよ」
ぽつりと呟いた言葉は闇に紛れて消えていき、矢田以外の人間の耳に入ることはなかった。
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