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第47話

 矢田が温かさを噛み締めていると、長谷がじっと見つめてくる。改めて長谷の方へ向き直ると、彼は落ち着いた様子で話を再開した。 「それでも……矢田くん。君が案外繊細だったりとか、楽しいことを共有したい性格だったりとか、遊びだけの関係のはずなのに、僕が辛い時に寄り添ってくれたりだとか……とにかく、そういった部分に惹かれて、それで……」 「それで?」 「――好きに、なったんだ」 「その気持ちは嬉しいですけど、でも」 「自分には分不相応……だったかな?」  矢田が小さく頷くと、長谷は真剣な面持ちで語りかける。 「もし、理由があるんだったら……良ければ、聞かせてくれないかな」 「……部長は、それを話したら俺への対応が変わるとか、そういったことはないですか……?」 「うん、君は君だろう」  はっとした様子の矢田は、一瞬泣き出しそうな表情をした後、ぐいとアイスコーヒーを飲み干して氷だけになったグラスをテーブルの上にことりと置く。 「あの、部長」 「何かな」 「今から俺の家、来てくれますか」 「構わないが、僕もこれを飲むから待っていてくれるかい」 「あっ……はい、大丈夫です……すみません」  謝らなくていいよ、と長谷は微笑むと残りのコーヒーを飲み干し音も立てずにテーブルへ置く。  ゆっくりと立ち上がった長谷が伝票を持って歩き出すと、矢田は慌ててついていった。 「ここは僕が支払うから」 「え、でも……」 「いいから奢られてなさい」  穏やかな口調で諭され、矢田は口をつぐむ。クレジットカードで支払いを終えた長谷は、矢田に目配せをしてから店を後にする。  それに着いていき、長谷を追い抜かした矢田は緊張した様子で駅へと向かう。長谷はゆったりとその後ろについていき、ICカードを改札に通した。  ホームに着いた瞬間電車がホームに滑り込んできたため、二人揃って乗り込む。  つり革を持って電車に揺られている間、お互い会話の糸口が見つからず他人のように過ごした。  矢田の自宅へ向かう路線が繋がっている駅に到着すると、焦った様子で矢田が降りたため思わず長谷が手を掴むと、やたらと冷たくなっているそれに驚いた。 「矢田くん、大丈夫?」 「あ、その……緊張、してるみたいで……」 「無理なら今日は……」 「嫌です」  眉間に皺を寄せた矢田がそう言うと、長谷の目が見開かれる。普段飄々とした男の真剣な様子に、長谷はただただ黙ってついていくしかなかった。

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