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第49話
矢田が先に入り、長谷がその後に続くと家の中へ入った瞬間、矢田に手を引かれた。
一瞬身体が密着し、ドアをロックする音とドアガードを上げる音がしたと思ったらすぐに矢田は離れていったが、手は握られたままだった。
彼の手の冷たさを感じながら靴を脱ぎ散らかし、ゆるく引っ張られるまま廊下を歩いていくと、リビングへとたどり着く。
長谷が最後に見た時よりもソファーに服がたくさんかけられているのが一瞬目に入ったが、矢田がさっさと回収して長谷の横を通り、脱衣所に放り込んだような物音がした。
その間も立ち尽くしていた長谷は、視線を動かすとどうやら水切り台の食器も片付けられていないようだった。
以前急に訪れたときは綺麗だったのに、今の荒れようを見るに仕事が忙しかったというのもあるだろうが、なんとなく自分のせいでこうなったような気がした長谷は、いたたまれない気持ちになり視線をソファーへと戻すと、矢田がリビングへと戻ってきた。
「……あの、ソファー。座ってください」
「あ、ああ……」
矢田が纏うぴりりとした空気が伝染してしまった長谷は、若干ぎこちない動きをしながらソファーへと腰かける。
それを見た矢田は「ちょっと持っててくださいね」と言い残し部屋を後にした。
また取り残された長谷は、点いていないテレビの画面にぼんやりと映し出されている自分の鏡像をしばらく見つめた後、天井へ視線を移した。
天井に埋め込まれた暖色系のLEDが目にちかちかと飛び込んでくる。今の自分には眩しすぎると感じた長谷は、そっと目を閉じて息を漏らした。
数分後、アルバムのような分厚い冊子を抱えて帰ってきた矢田は、ローテーブルの上にゆっくりとその本を置く。
「……部長、車って好きですか?」
「ん?うーん……有名なメーカーと車種の名前がわかる程度かな」
「そうですか」
突拍子もない質問に面食らいながらも答えると、矢田は何ともいえない表情をしていた。車が好きということと、彼が言おうとしていることがどうしても結びつかずに一人頭を悩ませていると、矢田が深呼吸をする気配がしたので姿勢を正した。
矢田が震える手で冊子の表紙をめくり、遊び紙をめくるとどこか矢田の面影がある小さな子供と祖父らしい初老の男の写真が目に飛び込んでくる。
長谷はその男の名前が即座に頭に浮かび、矢田の方を見ると彼は気まずそうに視線を逸らした。
「矢田くん、まさか君って――」
「……はい。部長が予想してる通りだと、思います」
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