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第60話

 ぐちゅぐちゅとした音の間隔が狭まる度に、互いに上り詰めていく。  駄目押しとばかりに矢田が最奥に陰茎を押し込むと、長谷は彼の腰に足を回す。  密着して二人同時に身体を震わせると、いつの間にか装着されていたスキン越しに大量の精液が打ち付けられる感覚を、長谷はうっとりと感じていた。 「はあ……はあ……譲さん、身体、つらくないですか……?」 「ん……大丈夫、ありがとう……」  年甲斐もなく激しく交わった長谷の心臓は全力疾走した後のように脈打っていたが、それよりも恋人として繋がれた多幸感に包まれていた。  矢田は長谷の肩に顔を埋めたまま、まだ震えの残る身体で必死に呼吸を整えていた。  互いの汗で肌がぴたりと張りつき、離れることさえ惜しいように感じる。 「……譲さん」 「なんだい……?」 「俺、幸せすぎてどうにかなりそうです」  情けないほど真っ直ぐな告白に、長谷は思わず吹き出す。 「ふふ……そんな顔で言われたら、僕のほうこそ……」  胸の奥が熱く、涙がこぼれそうになる。  矢田は長谷の髪を指に絡めながら、そっと額に口づけを落とした。 「ずっと、一緒にいたいです。これからも」 「……うん。僕も」  重なった声は、どちらともなく微笑みに溶けていく。  暖かな光が差し込む部屋で、二人は恋人として初めての交わりの余韻に浸り続けた。  矢田が持ってきた温かいタオルで身体を拭いた後、緊張の糸が解けた二人は夕陽が沈む頃まで寝続けていた。  長谷が目を覚まし身体を起こすと、夕陽の赤と夜のはじまりの青が溶け合ってとても美しい空だった。 「譲さん……?」  目を擦りながら起き上がった矢田の方を振り返り、長谷は微笑む。 「ほら、空がすごく綺麗なんだ」 「……本当ですね」  肩を寄せ合って、赤い光が消えるまで外をぼうっと眺めていると、つらかった気持ちも一緒にどこかへ行ってしまったような気がした。  部屋が暗闇に包まれた頃、長谷のみぞおちあたりからくうう、と音がする。矢田は少しおかしそうに笑いながら長谷に語りかけた。 「今度こそ、俺の手料理食べてくれますか」 「勿論。楽しみにしているよ」  服を整えてリビングへ戻ると、ソファーへ座るよう促される。 「なんか適当に見ていてください」 「ああ、ありがとう」  テレビのリモコンを渡した後、矢田はダイニングの方へ歩いていく。冷蔵庫を開ける音と、なにやら食材を取り出している音を聞きながら、長谷は手に持った機械を操作した。

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