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第61話
休日の夜らしい気の抜けたバラエティ番組を観ていると、ふわりといい香りが漂ってくる。今日のメニューを想像した長谷は、口元が緩んだ。
調理音が止み、食器類をテーブルへ置く音がした後に矢田から声がかかる。
「お待たせしました」
「ありがとう。任せちゃってすまないね」
「いーえ。リベンジですから」
椅子に腰掛けたあとテーブルの上を改めて見ると、白いお皿の上に付け合わせの野菜とハンバーグが乗っていた。
おそらくソースも自作だろうと思われるそれは、ダイニングの明かりを受けてきらきらと輝いている。
横を見ると、平らなお皿にレストランのように盛られたご飯とコーンスープが置かれていた。
無言で料理をじっと見つめていた長谷を見て、矢田が不安そうな顔をする。
「すみません……ハンバーグなんて子供っぽかったですかね」
「ちっ、違うよ。あまりにも美味しそうで見とれてしまってね……」
「それならいいんですが……た、食べますか?」
「そうだね。いただきます」
手を合わせてからフォークとナイフに手を伸ばすと、やたらぎくしゃくした様子の矢田が視界に映る。
恋人としての初めての食事に緊張しているのか、手料理のリベンジに緊張しているのか、どちらなんだろう――と想像しただけで笑みがこぼれた。
ナイフでハンバーグを切ると、肉汁がじゅわりと溢れてこれは絶対に美味しいと確信する。
肉を刺したフォークを口に運ぶと、肉汁の旨味とソースの香ばしさが広がり、長谷は思わず目を閉じる。
「……うん、すごく美味しいよ」
素直に褒められた矢田の頬が赤く染まり、恥ずかしそうに目をそらす。
「そ、そうですか……よかった……」
二人で笑い合いながら食べ進め、自然と会話も弾む。
ちょうど良く冷めたであろうコーンスープに手を伸ばした頃には窓の外はすっかり夜になり、遠くの夜景が星のようにきらめいていた。
食後、ソファに並んで座るとリラックスした様子の矢田がそっと長谷の肩に頭をもたれかける。
ふわりと温かい彼の体温と、今日一日の思い出が心地よく胸に広がった。
「……譲さん、今日は本当に、ありがとうございました」
「僕のほうこそ、ありがとう。今……とても幸せだよ」
「あは、俺もです」
笑いながら互いの手を握り、デザートのような甘い余韻に包まれて夜が静かに更けていった。
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