63 / 68
エピローグ①
朝日が差し込み、その光に気づいた長谷は目を覚ます。隣では、矢田が長谷の腕に巻きついたまま穏やかな寝顔で、すうすうと寝息を立てている。
昨日一日で起こった様々な出来事を反芻しながら、ようやく心も身体も繋がることができた幸福を噛み締めつつ、長谷は矢田が目覚めるまでずっと寝顔を眺めていた。
数分後。ゆっくりと目を開けた矢田が、こちらを見ている長谷を視界にとらえると分かりやすく目を見開く。
「はっ……!いや、ゆずる、さん……」
「別に長谷部長でも構わないよ」
ゆったりと長谷が笑うと、矢田は分かりやすく唇を尖らせる。
「……俺が嫌なんです。だって、折角恋人になれたのに……」
存外ロマンチックな部分がある恋人を愛しいなと思った長谷は、思わず矢田の頭を撫でる。
「子供扱いですか……?」
「違うよ。愛しいなと思って」
「うわ、なんですかソレ……かっこよすぎません……?」
「そうかなあ……?」
「そうですよ」
矢田は頬を赤らめながらも長谷の手をぎゅっと力強く握り返す。
「……譲さん、もう朝なのに……こうしてると、ずっと布団の中で一緒にいたくなります」
長谷は微笑み、頭を撫でながら答えた。
「僕もだよ。昨日のことを思い出すと……まだ体がじんわりするくらいだ」
くすぐったそうに笑う矢田に、長谷は軽く肩を寄せる。腕を絡め合ったまま、柔らかな光の中で肩越しに互いの顔を見つめ合う。言葉はなくても、視線と体温だけで心が満たされていくのを感じた。
長谷がそっと矢田の頬にキスを落とすと、矢田は照れたように目を逸らす。
「んっ、譲さんばっか、ずるい……」
次の瞬間、自然に顔を近づけて小さな口づけを重ね合う。甘く、でも軽やかで、昨日の激しさとはまた違う、穏やかな幸せが二人を包み込む。
やがて小さな笑い声を交えながら、二人は布団の中でお互いの体温を感じつつ、まだ始まったばかりの恋人としての朝を静かに楽しんだ。
「そういえば、今日はどこかへ行きますか」
腕を絡めたまま、矢田のガラス玉のような瞳が長谷をとらえる。長谷はそれを見つめ返して、柔らかく笑った。
「そうだね。折角だし出かけようか。矢田くんはどこへ行きたい?」
「うーん……ベタですけど……水族館、とか……」
存外可愛らしいデートスポットが出てきた長谷は一瞬驚いたが、確かに自分も最近はそういったところに行けてなかったなと思ったため二つ返事で頷いた。
ともだちにシェアしよう!

