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エピローグ④
電車に乗り込み、二人並んで座る。時折手が触れる度に矢田は名残惜しそうに手の甲をくっつけている。
「手、繋いでみるかい」
冗談交じりに小声でそう言うと、矢田は頭を振って真面目な口調で答える。
「いえ、人目もありますし……気持ちだけ受け取っておきます」
本当はすごく繋ぎたいですけど、と軽く口を尖らせる矢田を見て可愛いなと思った長谷は、目を伏せて笑った。
隣で何やらスマートフォンを操作していた矢田が長谷の方を見て、得意げに口角を上げる。
「もうチケット取ったんで、受付でQRコード見せたらいけるはずです。譲さんの分、送っておきますね」
メッセージアプリに送られたURLを開くと、水族館の入場チケットを示す文章とQRコードが表示されている。
準備のいい恋人に感心していると、水族館の最寄り駅の名前がアナウンスで流れた。
改札を通って少しだけ歩くと、一際大きな建物が視界に入る。あまり大きくない規模の水族館だが、やはり町中にあると大きく感じるなと長谷が思っていると、矢田に腕を突かれた。
「どうかしましたか?」
「いや……記憶より結構大きいなと思ってね」
「確かに。俺もそう思ってました」
くすくすと笑う様子が、恋人になる前より年相応のあどけなさのような物を感じ、長谷は心の奥にじんわりと温かい感情が広がる。
これが愛しいということなのかなあと噛み締めながら、入場口へと歩いていった。
チケット売り場の横を通り過ぎ、入り口のゲートにQRコードをかざすと、軽快な音とともにゲートが開く。
最近の水族館はやたらとハイテクなんだなあ……としみじみしていると、いつの間にか隣に来ていた矢田が自分の小指で長谷の小指を繋ぎ止めていた。
「恵介くん」
「あの……やっぱり手ぇ、繋ぎたくなって……」
「いいよ」
「いいんですか?」
「みんなここでは魚に夢中だろう。それに……」
「それに?」
「僕も、君と手を繋ぎたかったんだ」
長谷が顔をほころばせると、暗がりでもわかるほど矢田の頬に紅が差す。
きっと自分の頬も赤らんでいるだろうなと思った長谷は、照れを隠すように矢田の小指を軽く引きながら、急ぐように水槽があるブースへと歩いていった。
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