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番外編 王様とぼくの年越しのこと・前

(※次男メランが生まれた後のお話)  獣人の国は寒い冬に新年を迎えるのだと知ったのは次男のメランが生まれる前だった。  獣人の国に来た初めての冬は、寒すぎて新年のことなんて考える余裕がなかった。次の年も長男ポイニーの出産でそれどころじゃなかった。三年目はメランを妊娠していたから年越しのことはすっかり後回しになっていた。 (だから今年こそ王様と年越しを楽しむんだ)  人の国では秋の収穫祭が終わると新年を迎える。お城では王様が新年のお祝いの言葉をみんなに伝えて、それをみんなで聞いてからお祝いをするんだそうだ。お城から遠い場所には王様の言葉が書かれた紙が届き、それを偉い人が王様の代わりに読む。収穫祭だから食べ物もお酒もたくさんあるし、お城や大きな街ではすごく賑やかになるのだとおかーさんが話していた。  ぼくが住んでいた田舎町はほかのところより冬が寒いからか、春のほうが新年っぽい感じがしていた。獣人の国のような春のお祭りはなかったけど、町中に花を飾ったり玄関の扉に花輪を飾ったりする。町の近くの山でしか育たないいい香りの花をたくさん摘んできて、それでお茶を作るのも春の楽しみの一つだ。このお茶は王族や貴族の人たちに大人気だったから田舎町きっての目玉商品にもなっている。  ぐぅぅ。  お腹が鳴ってしまった。お茶と一緒に春によく見かけていた焼き菓子のことを思い出したせいだ。用意したチャイを一口飲む。 (ちゃんと夜ご飯を食べたのにこれはどうなんだろう)  部屋に備え付けられたキッチンをチラッと見る。そこには年越し用に用意した生菓子があった。シロウさんに新しく教えてもらった獣人の国のお菓子で、餡にいろんな色をつけて動物や植物に見立てたものだ。初めて作ったにしてはよくできたと思う。  教えてもらったどの形もかわいくて、気がつけばたくさん作ってしまっていた。だから、アルギュロスさんやシロウさん、メリさん、それに使用人の人たちにお裾分けした。キッチンに残っているのは梅という花とうぐいすという鳥に見立てた生菓子で、王様と一緒に食べようと思っている。 (今夜が“大晦日”で、明日が“お正月”なんだよね)  獣人の国では年末年始をそう呼ぶらしい。本当は家族で過ごすのがいいんだろうけど、バタバタしていたぼくを気遣ってくれたのかアルギュロスさんがポイニーとメランを預かってくれた。「年末年始はお二人でお過ごしください」なんて言われて、それはうれしいけどドキドキしてしまう。 (だって、王様と二人きりなんて久しぶりだからさ)  ポイニーの手が離れたと思ったらメランが生まれた。それに王様も忙しくなって家族揃って過ごす時間はあまり多くない。だからって不満なことは何もない。王様はとても忙しいのに時間を見つけては子どもたちと遊んでくれる。ぼくのことも気遣ってくれている。使用人の人たちもたくさん手伝ってくれるから毎日楽しく過ごしていた。それでも王様と二人きりになりたいと思うことは何度もあった。アルギュロスさんは、そんなぼくの気持ちに気づいていたのかもしれない。 「王様と二人きりかー……楽しみだなぁ」 「俺も楽しみにしていた」  急に声が聞こえてきてピャッと飛び跳ねてしまった。振り向くとすぐ後ろに王様が立っている。いつの間に部屋に来たんだろう。ドアの開け閉めや歩く音にまったく気がつかなかった。 「び……っくりした」 「驚かせるつもりはなかったんだが、そういう顔も悪くない」  そう言って隣に王様が座った。少し前までは「王様が床に座るなんて」と焦ることもあったけど、いまはこうして暖炉の前で並んで座るのが好きだ。ぼくだけが知っている王様のような気がして胸がきゅっとなる。 「それにしてもアカリは相変わらず寒がりだな」 「す、すみません」  暖炉の火はボウボウに燃えていて、それなのにぼくは分厚い上着を二枚も着ていた。 「悪いと言っているわけじゃない。そのうち暖炉の前を陣取るアカリが冬の風物詩になりそうだ」  そう言って王様の蜂蜜色の目が窓の外を見た。外は相変わらず大きな雪が降っていて、庭はもう何日も真っ白になったままでいる。夜だからか外はとても静かだ。こういうのを“しんしんと降る”というのだろう。本で読んだときはどういうことかわからなかったけど、こうして雪が降っているのを見るとなんとなくわかる。 (きっとこれまでもこんなふうだったんだろうけど)  一年目は寒すぎて“しんしんと”なんて気にしたこともなかった。二年目は子育てでよく覚えていない。一年前は体を冷やさないようにと思って窓に近づくことも外を見ることもあまりなかったような気がする。  王様が肩をグッと抱き寄せてきた。振り向くとかっこいい王様がぼくをじっと見ている。暖炉の火が反射して金色の髪の毛はキラキラ光り、蜂蜜色の目は少しだけ赤色が混じっているように見えた。 「アカリが城にやって来て四年か」  王様の言葉に「もう四年なんだ」と改めて思った。  ぼくは人質として人の国から獣人の国にやって来た。ぼくの目は紫色だったから、王族の誰かの子どもだろうとは思っていた。でもまさか王様の子どもだったとは思わなかった。そのことを知った十日後には花嫁として獣人の国に来ていた。獣人の国は人の国とは違うことが多くて戸惑うこともあったけど、みんなに助けてもらってこうして王様の奧さんになることができた。 (しかも二人も子どもを生むなんて驚きだ)  男のぼくが二人も生むなんて、いまでも不思議な気持ちになる。「でもまたお乳まで出るようになったしな」なんて思ったからか、ほんの少し膨らんだ胸がきゅうっとしたような気がした。 「あっという間の四年だったが、アカリが来てくれて本当によかったと思っている」 「ぼくもここに来られてよかったです。ぼく、とても幸せです」 「幸せか」 「はい」  肩を抱いていた王様の手に力が入った。チラッと見ると金色の耳がピクピクしている。ここに来たときは気になってしょうがなかった獣人の耳にもすっかり慣れた。 「王様と一緒に新年を迎えられるのがうれしいです」 「俺もだ」  頬にたてがみみたいな王様の髪の毛が当たった。どうしたのだろうと見上げると、下りてきた王様の顔が首のあたりに近づく。そのままかぷっと噛まれた。 「ふはっ」  噛まれたのにくすぐったくて思わず笑ってしまった。そうしたら、またかぷっと噛まれて首がゾワゾワする。くすぐったいのに気持ちがよくて背中がムズムズした。  被っていた上着を王様が剥ぎ取った。上着がないと寒いのに、そばに王様がいるからかそんな感じがしない。むしろ首をかぷかぷされているからか段々熱くなってきた。 「今夜は寝間着か」 「んふ、は、はい。せっかく王様と年越しするなら、パジャマよりこっちがいいかなと思って……ふはっ」  ぼくが説明している間も王様がかぷかぷする。気がついたら鎖骨のあたりをかぷっと噛まれていた。パジャマと違って獣人の国の寝間着は前部分を重ねているだけだから、指で引っ張るだけですぐに胸まで見える。  王様の指が重なっているところをグイッと引っ張った。鎖骨より下あたりまではだけたところに王様がチュッと吸いついた。 「お、さま、」 「違うだろう?」 「フ、リソス」  名前を呼んだら、今度は胸の上あたりをチュウッと吸われた。ほんの少し膨らんでいるからか、なんだか前より敏感になっているような気がする。チュウッと吸われるたびに背中がゾクゾクして、それがお腹をジンジンさせて股間がモゾモゾした。太ももをモジモジ擦り合わせていると、それに気づいたのか王様が笑った。 「……だって」 「感じやすいアカリもかわいい」 「……今夜はちょっと意地悪です」 「そうか? 俺はかわいいアカリをかわいがっているだけだが?」  笑いながら王様の口が少しずつ下りていく。そうして少しだけ膨らんでいるぼくの胸の上側をぱくっと食べた。 「んっ!」  胸から耳の裏にかけてビリビリしたものが駆け抜けた。お腹がモゾモゾして落ち着かない。それどころかお腹の奥までビリビリし始めて股間がカッと熱くなるのがわかった。 (た、勃っちゃった……)  口にキスしたわけじゃないのに、ぼくのアレはすっかり元気になってしまっていた。お尻もじわっと濡れている気がする。 「年越しのときにはこうしたことはしないものだと言われているが……」 「そ、なんです、か?」 「年寄りたちはみなそう口にする」  じゃあ、王様もしないのだろうか。そう思ったら体の奥がきゅうっと切なくなった。触ってもらえると勝手に思っていたぼくのアレがふるっと震えて、その奥にある玉がきゅんと持ち上がる。お尻の孔も寂しくてきゅうきゅう締まった。 (なんだか体が熱くて変な感じがする)  こうなるともう駄目だ。王様がほしくてたまらなくなる。大きな体に抱きしめられたくて、それでも足りなくてしがみつきたい気持ちがあふれそうになった。それと同じくらい体の奥を王様でいっぱいにしてほしかった。いまだって王様の太くて熱いものを入れてほしくてたまらない。そう思ったからか孔からトロッと何かが漏れ出した。 「心配するな。ここには俺とおまえしかいない。年寄りが何を言おうと関係ない」 「……じゃあ……」 「愛しいつがいがこんなにも甘い匂いで誘っているのに何もしないでいられるはずがないだろう」 「……なんだか恥ずかしいです」 「恥ずかしがるアカリもかわいい」  鎖骨の下にまたチュウッと吸いつかれた。そこをペロッと舐めた王様が顔を上げてぼくを見る。  蜂蜜色の目がいつも以上にギラギラしている。ぼくはドクドクうるさくなる鼓動を感じながら、王様の頬を両手で包み込んでかぷっと噛みつくようなキスをした。

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