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田中×新城

隣の席に座った新城(しんじょう)はとっくにできあがっていたらしい。 普通に話していたものだから気が付かなかった。 内定式のあと懇親会と銘打った飲み会の席で、メインは学生なのかお偉方なのか。 「うぅ、呑みすぎて頭痛い」 誰もいなくなった会場の外で新城がうずくまりながら、膝を抱えて丸まる。 他は何人か帰宅、その他は二次会へ。 田中はというと、フラフラと歩く新城を放っておけず居残り。 「大丈夫すか。ほら水買ってきたから飲んで。」 「ありがとうございます…あれ? あー、あはは、ずーっと無表情の田中くんだぁ。お水ありがとぉ」 ふにゃっと笑って、水を傾ける。 口についてないペットボトルはそのまま新城のスーツを濡らして、新城は状況がよく飲み込めない顔をした。 「新城さん、呑みすぎっす。 そんな濡れたスーツじゃ電車もタクシーも乗れねっすよ」 「んー、じゃ二次会いく?会場どこだっけぇ?」 へらりと笑う新城の顔に、むりむりと首を横に振る田中。 そんな状態で行かれても困る人こそいても、喜ぶ人はいないだろうと苦笑いを返した。 とはいえ田中の家は遠く、新城の家は知らない。 幸か不幸か歓楽街、少し歩けばホテルの建ち並ぶ通りに出る。 ――役得、じゃない。これは不可抗力、仕方ない。 最初に見たときから好みのタイプだな、とは思っていたけど。 別に何もホテル行って抱こうとか思ってないし、と頭の中で言い訳しながら新城の手をひく。 「…新城さん、家どこすか」 一応聞いておいて、遠かったらホテルに行く。そう心に決めた。 「んーとね、そこ。そこに見えるでしょ? 水色のアパート、2階の202号室ー」 ――いや、ちっか。なにそれ。 決めたことは一瞬で音を立てて崩れ去る。 仕方なく新城の手を引いたままアパートまで送り届けて、新城がしっかり鍵をかけた音まで聞く。 それから階段を降りて、アパートを背に少し大きめな声で呟く。 「あーくそ、ヤリてぇー」 「あはは、ヤリてぇって。田中くん若いねぇ」 頭上から聞こえる新城の声に驚いて顔を上げる。 ベランダで煙草をふかす可愛らしい顔。 「…若いっすよ、まだ21なんで。てか新城さん煙草似合わないっすね」 「そーやって俺の事ばかにしてぇ。 部屋戻っといでよ、お酒ならあるし飲み直そ?」 タンタン、とリズム良く階段を上がる。 まさか飲み直そう、なんてお誘いが来ると思わなくて階段を上るのと同じだけテンションもあがっていく。 キィ、と音を立てて202号室の部屋が開いて、おいでおいでと子供を呼ぶように手招きする新城の元へ駆け寄る。 「狭いけどどーぞ、ゆっくりしてってねぇ。」 玄関を開けてすぐにある冷蔵庫をあけて、呑気に何を飲もうか物色する新城を見て思い出す。 「新城さん、あれ酔ったフリすか。帰るのにタクシーも電車も使わねぇじゃん。 二次会も行くつもりなかったでしょ」 「あは、ばれた? だって田中くん面倒見よさそうだったし、タイプだったんだもん。 ねーぇ、簡単に男の家あがっちゃいけないんだよぉ?」 するりと田中の腰に手を回す。 背丈は変わらないはずなのに少し腰をかがめて見上げてくる顔が、田中の目にいやらしく映る。 「……新城さんこそ、簡単に男あげないほうがいっすよ。」 新城の手を掴んで壁へ押し付ける。 身動きが取れないはずなのに挑発的な顔を向ける新城にキスをして、唇を離してみてもなお余裕そうな顔つき。 「こんなところでがっつかないでよ。ヤラせてあげるから家の中おいで?」 *** 結局飲み直しなんてしないまま、倒れるようにベッドへ転がる。 何度も唇を交わして、ふいに新城が呟くのは田中の下の名前。 「…修也(しゅうや)くん」 「ちょっと、なんで下の名前知ってんすか」 いいから続き、と強引に田中改め、修也の唇に触れる。 修也がぐいっと新城を引き離して顔を掴んだあと、無理やり目を合わすように新城の顔を覗く。 「俺も新城さんの下の名前知ってる、(かえで)でしょ」 「えっ、なん…あっ」 なんで、と言いかけた唇は修也が触る下半身への刺激で途絶えた。 胸を舐めながら器用に新城のものを触るせいで快感が逃がせなくて、声が抑えられずに次から次へと漏れる。 「やっ、は…んっ、修也く…あっ」 「新城さん感度いいっすね、可愛い」 ちゅ、と軽く唇に触れて新城の顔を撫でて笑った。 ――笑った顔、かわい… なんて思ったのは一瞬で、入り口にあてがわれた指がひとつ新城の中へ入ってくる。 「ちょっ、まだ俺なんもしてないって…っ」 「なんもしなくていいっす、俺が新城さん触りたいだけなんで」 また無表情に戻ると、さっきと同じように少しずつ入りを慣らしていく。 静かな部屋に聞こえるのは水音と新城の息遣いだけで、その音で修也の頭がのぼせる。 「新城さん、もう挿れたいんすけどゴムとかないっすか」 振り返ってベッドに備え付けの引き出しを開けようとしたタイミングで、修也がぐっと新城の腰を掴む。 ぐぐ、と力が入って一気に修也が新城の奥へ入る。 「ちょっ、も…ば、か…っ、生で挿れんな、よぉ…っ」 「中には出さないんで、すみません」 そういう問題じゃない、と頭では思いながら気持ちよさで理性が飛ぶ。 元々後ろからされるのがすきなのもあって、修也が動くたびになにもかもどうでもよくなる。 「…んっ、んん…、修也くん、前も一緒に触って…っ」 言われるがままするりと伸びてきた手が新城のものをゆるゆると扱く。 気持ちよさそうによがる新城を見て、後ろで修也が嬉しそうに笑みをこぼす。新城はそれを知らないまま。 前からの体勢にかえると、新城のことをぎゅっと強く抱きしめてそのまま動く。 「あっあっ、やだ、声とまんな…っ、」 「新城さんの声可愛い、ずっと聞いてたいけどごめん、俺イッていい?」 こくこくと何度か頷いて、二人で抱き合いながら果てて修也が耳元で謝る。 「すんません、中出しちゃったっす」 「も、耳元でしゃべっちゃだめ!もう、中出しは恋人だけの特権なのにー!  責任取ってくれんのぉ?てかなんで俺の名前知ってるの?」 「あんた自分で『人事の新城 楓です』って言ってたんじゃないすか。  新城さんこそなんで俺の名前知ってたんすか。その方が気になるっすけど。」 修也にキスをして「内緒!」とだけ言うとぷい、と背中を向ける。 その背中を抱きしめて名前を呼ぶ。 「楓さん。俺責任取りたいから、付き合って?」 仕方ないなぁ、と言いながら振り返って修也とキスを交わす。 新城が修也を知っていたのはただ一つ、新卒の採用担当だったから。 エントリーシートの写真を見て一目ぼれ、経歴も文句なしで一番に採用を上司に推した。 ストーカーみたいな経緯で本人には絶対に言えない。 新城 楓 28歳 田中 修也 21歳 まだ夜は始まったばかり。 付き合った初日の夜は、酒が抜けるまで抱きつぶされて終わった。

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