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第48話 執着を重ねて ※
聡一が花村家を出て3年の月日がたった。本人の宣言通り盆と正月には顔を出すので、僕が通っている高校の長期休みとかぶる形で聡一と会えるのは正直嬉しかった。しかも花村屋の仕事をしているわけでもない聡一は、もちろん家事などの手伝いはしていたが、基本的に一緒にいてくれた。夜になると、利吉と理一郎にしこたま呑まされた聡一が僕の部屋にやってきては「これはさすがにしんどい」と素直に愚痴をこぼしていたのが面白かった。そして僕は、その絶好の機会を逃さずに聡一を布団に誘って、肌を重ねた。
聡一は相変わらず、素直に僕の好意を受け取ろうとはしてくれない。受け取ってくれないのに、逃げなくなった。ずるいところは離れても変わらなかったが、それでも「兄ちゃん」だからと言わなくなったことが僕は嬉しかった。でもたまに、これは所謂「体だけの関係」というやつなのではないだろうか、と思ってしまう。
僕は聡一が示してくれない好意を、あの別れの日に忍ばせた簪が返されていないというただその事実だけに縋って信じている。
だから、たまにそれが歯がゆくて、意地悪してしまっても仕方がないことではないだろうか。
僕は、自分の下で小さく喘ぎ声を漏らす愛しい人の姿を見ながら心の中で言い訳をした。油で湿らせた穴に指を入れて、聡一の好きなところを探りながら優しく中をなでる。聡一の顔が苦悶と快感で歪んでいるのを見ながら僕は微笑んだ。
「ここ? 好き?」
「おまっ――! ……しら、ん!」
聞いても顔を逸らされる。ほらまた素直じゃない。羞恥でこちらの方を見ようとしない聡一の腰を持ち上げて、見せつけるように中指を入れたり出したりを繰り返す。
「言ってくれないとわかんないなぁ」
「っ!ぅ、そ」
薄く目を開けてこちらを見る聡一に、僕は肩を竦めて口を曲げて答える。
「嘘? 嘘つきって? あに様には言われたくないなぁ」
内壁を撫で上げるように指の腹を沿わせてくるりと回すと、わかりやすいぐらい中が締められる。体はいつも正直なのに。
「言ってみたら? 『俺はここを指で擦られるのが好きです』って」
一番反応がいい場所を執拗に撫で上げると、聡一は嬌声を噛み殺しながら真っ赤になった顔を手で隠してしまう。漏れ出る声だけでも美味しいが、それでももっと欲しくなる。求めて欲しくなる。
「あれ? それともこっちだった?」
わざと違うところに指を移動させて聡一の反応を見る。「ぅ……」と小さく呻いて目を隠していた手がずれてこちらを見る。目で訴えられる。
「どうしてほしいの?」
意地悪く笑っても、聡一は答えない。
「言って? 『もっと奥』って。『指じゃないのをください』って」
「い、わ……ないっ!」
眉根を寄せて、顔を真っ赤にしてこちらを見る強情な聡一に、僕はため息をついた。
「もうっ! 意地っ張り!」
僕は指を引き抜いて、自分自身を聡一の穴に当てがった。そのままゆっくり先端を挿れていく。雁首が入ったところで一気に奥まで侵入する。温かい聡一の中が僕を締め付けてくる。
「ぅ、あっ!~~~っ!!」
嬌声を聡一がまた噛み締める。聡一の顎が上がり、僕はよく見える喉に僕は唇を落とす。顔がまた隠されてしまう。僕は腰を打ち付けながら聡一の手を顔から剥ぎ取り、快感に悶える聡一の顔を見る。
「ぅ、ぐ、ぁ、ぁ、ぅ」
腰を打ち付ける拍子に合わせて上がるくぐもった声を聴きながら、僕は聡一の中を堪能した。何度も抜き差しされて白く泡立つ粘液がより中を滑りやすくさせていく。僕を受け入れて締め上げて射精を促してくる魔性の穴に虜になる。
「僕、以外の、人に、使わせ、ない、でよ?」
そう言うと、聡一がキッと睨んできた。まるで不貞を疑われたとでもいうかのような鋭さに、僕はちょっと驚いた。
「誰、が、使うって、い――っ! ぁぐ! ぉ、ぁあっ!」
どうやら失言だったらしい。苦言を腰を強く打ち付けて上書きしていく。
聡一の反り立つ棒の先からだらだらと透明な粘液が流れ出て、打ち付けられる腰の衝撃で聡一の引き締まった腹に汁を飛ばしていく。僕自身も、聡一の中で刺激されてそろそろ限界だった。出したい、でもまだこの気持ちよさに浸っていたい。葛藤で頭の芯が痺れてくる。
「っ、あにっ、様、――くっ! 出、す、よ? いい?」
「~~っ! 聞、くな、馬鹿っ! あ、あ、っ!」
全然答えてくれない。僕は腹が立って強く腰をつけたあと、引き抜いて聡一の腹の上に熱を吐き出した。聡一が驚いてこちらを見てくるので、僕はさらに聡一の一物を手で摺り上げた。
「ちょ、永太ッ! やめっ! ぁ、くぅっ――っ!」
無言で擦り上げて射精を促し、聡一自らにかかるように吐き出させる。僕は聡一の腹の上で二人の精子が混ざり合ったのをただ見下ろしていた。
手拭いで聡一の腹の上に溜まった二人分の精子を手早く拭き取ると、聡一は体を起き上がらせた。いつもと違って、聡一が少しぼんやりとしながらもこちらに視線で疑問を投げかけてくる。ちょっとおろおろとしている聡一は可愛いが、今はそこに触れてあげたいとは思えなかった。たぶん、これが明日聡一が行ってしまうとかだったら否が応でも中に出しただろうなと思うけど、まだ帰ってきた初日だったから理性――というより意地が勝った。
何かを言おうとしている聡一を無視して、僕は座卓に置いておいた湯呑に口をつけてすっかり冷めた湯冷ましを飲んだ。
「永太、あの――」
声をかけてくる聡一をさらに無視して、聡一に出していた湯呑の中身も口に含む。そのまま聡一に近付いて口付けて、口の中にある水を少しずつ聡一の口に流し込んだ。二回ほど聡一の喉が動くのを確認して、唇を離す。
「疲れてるのにごめんね。寝ようか」
僕がそう言うと、聡一は少し寂しそうな顔をしながら、「あぁ」と答えた。
夏で蒸し暑い夜に、男同士くっついて寝るのは些か暑苦しいが、それでも僕は聡一に抱き着いて眠った。普段使っている敷布団は使わずに、聡一が使っていたい草の敷物を敷いて二人でくっついて横になる。聡一の胸に顔を押し付けて、少し汗をかいた聡一の匂いを肺いっぱいに吸い込んだ。この匂いがあと5日後には嗅げなくなるのかと考えると、やっぱり中に出しておけばよかったかと後悔した。
「……手紙」
聡一がぽつりと呟いたので、僕はぎくりと体を震わせた。恐る恐る視線を上げると、聡一がこちらを見ていた。
「手紙、待ってたんだけど」
僕は言い訳を考えながら、いやどうにも無理だなと考えた。
僕が言い出した手紙のやり取りは、正直あまりできてないかった。手紙を書くとなると、相手の手元に残るから、僕は自分の字の汚さに恥ずかしくなってしまう。林に聞いても色眼鏡でしか答えないからなんの慰めにもならないし、聡一から届く返信を見ると惚れ惚れするほど綺麗な字で書いてあるから、ますます落ち込んでしまう。そう林に言うと、色眼鏡はどっちだよって言われたのが腹立たしい。
書きたいことはたくさんあった。僕はこの3年間で、聡一が言ったことを肝に銘じて他に関わるようになった。世界の広げ方なんていうものは正直わからなかったが、他に関わるようになったら話しかけられる回数も増えて、告白される回数も増えた。その度に林に揶揄われるようになった。
高校生活についてもたくさん書きたいことがあった。例えば、聡一の自転車で登校していると、元の持ち主である小坂という男に声をかけられたこととか。小坂は料亭「季ノ路」の三男坊で、ヒロコの兄だという。聡一が高校の時に言っていた先輩本人に会えて、僕は驚いたことをしたためたかったが、いざ書き始めるともう聡一に逢いたくてたまらなくなって、どうしてもそのあと続けて書けなくなってしまった。結局、それを伝えたのは去年の夏に会った時だった。
「……送った、よ?」
僕が視線を逸らしながら言うと、聡一は呆れたように息を吐いた。
「春にな。今何月だよ……」
聡一が目を閉じてそっと僕の頭を胸に寄せた。どうやら春に進級した時に送った手紙では、聡一は満足してくれてなかったらしい。
寂しいと思ってくれていたんだろうか。そう思うと、僕はちょっと嬉しくなって聡一の胸元に顔を擦りつけた。
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