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 いち早く、危機的状況にあるテミスアーリンに、援軍を派遣した国がある。  エディンの母国である、ネイトステフ王国だ。  国境近くに城を構える第三王子・エディンは、有事のたびに出兵していた。  それが、王族の中での、彼の役割なのだ。  アルネの住むテミスアーリンからも近いとあって、すぐに挙兵の命令がエディンに下された。   『友好国であるネイトステフから、援軍が来ている。領土内で、何度も勝利しているんだ』  疲労の色が濃い兄の顔が、その時だけは明るくなった。  そう、アルネは思い返した。 「そして兄上は、こんなこともおっしゃられた」    『あの名高い竜将・フェリックス・エディン・ラヴィゲール殿下も、参戦している!』  その名を、兄は目を輝かせて言ったのだ。  勇猛果敢な、一騎当千の猛者だ、と。 「フェリックス・エディン・ラヴィゲール殿下……」  アルネは、そっとその名を唱えた。  不思議と、勇気が湧いてくる。 「長い、お名前。まるで、呪文みたいだ」  その名が、恋の呪文となる日が近いことを、アルネはまだ知らなかった。

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