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第四章 窮地

 テミスアーリン宮殿は、堅牢だが美しく豪奢だった。  そして、広く複雑だ。  回廊は幾重にも折れ、いくつもの部屋へ続くドアがある。  まるで、迷宮のようだ。  しかしエディンは、さほど迷うことはなかった。  彼も王族の一人なので、宮殿の造りは多少心得ているのだ。 「おそらくこの辺りに、緊急時の逃げ道が隠してあるはず」  回廊が突き当たりで、左右に分かれている。  右に行くか、左に行くか。  だが彼は、どちらへも進まなかった。  行き止まりになっている、正面の壁。  そこに、立ち止まった。 「これは……」  壁には、大きな肖像画が掛けられてあった。  額縁には虹色に輝く螺鈿細工が施され、大粒の真珠で飾られている。  しかしエディンは、そのような財宝に目が眩んだのでは、ない。  描かれているその少年に、息を飲んでいた。

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