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「フェリックス・エディン・ラヴィゲール、だと!?」  動きを止めた、というより、将軍は固まった。  そして、目に見えてうろたえだしたのだ。 「なぜ、その名を知っている? 奴が、ここに来るのか!?」  動揺する彼の姿に、アルネはピンときた。  これは、チャンスだ。 (竜将殿下には、お会いしたことも無いけれど。この際、お名前を使わせていただこう!)  将軍に組み敷かれたまま、アルネは声高に叫んだ。 「そうとも! あの御方は、ここへ向かってらっしゃるんだ!」 「ま、まさか。このような迷宮を、嗅ぎつけるなど!」 「嘘か真か、その耳で確かめるがいい。ほら、足音が聞こえる」 「たわけた嘘を!」 「もう、すぐそこまで来ておいでだ。あと3歩、2歩、1歩……」 「……」  急に無言になった将軍を、アルネは不思議に思った。  そして彼自身もまた、声を失った。  将軍の結んだ唇から、鮮やかな色の血が流れたのだ。  

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