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「アルネ……無事で良かった! 感謝いたします、フェリックス殿下」 「戦は、収束に向かっております。ご安心ください」 「あの、それで。仮王を、ご存じありませんか? 私の息子を」 「大丈夫。今、私の部下が治療を行っております」 「では、あの子は怪我を!?」 「命に別状はあられません。王妃様も、どうぞ足の手当てを」  衛生兵も到着し、アルネの母は担架で運ばれていった。  目の前で、どんどん時が流れていく。  その様を、アルネは放心して眺めていた。  未だ、ベッドの上に座り込んだままで。  命拾い、戦勝、家族の無事、そんな夢のような現実を、まるで他人事のように感じていた。 「アルネ殿下。そろそろ、お召し物を身に付けられては?」 「あ、はい……」  脱ぎ捨てたはずの衣服が、ていねいに畳まれ、差し出されている。  低く、優しい声の主は、あの竜将だ。  アルネが服を受け取る時、一瞬だけ、少しだけ、エディンの手と触れ合った。  武人らしい、硬く強堅な手だ。  だが、その手に触れてようやく、アルネは時の流れに戻ることができた。  狂気の戦乱を乗り越え、正気を取り戻すことができた。

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