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「お待ちください。竜将殿下が、執行役を!?」  ほとんど悲鳴のような、アルネの声だ。  取り乱す少年をなだめるように、エディンは声色を柔らかくした。 「これが最善策なのだ。テミスアーリンの人間が、同胞の首を落とすと、国内に怨恨が残る」 「あ……」 「だが、ネイトステフ王国の人間である私ならば、恨まれても問題ない」  アルネは、膝に置いた手で、服を強く握った。 (この御方は、自ら憎まれ役を買って出てくれたんだ……!)  目に涙が滲んで来たアルネを気遣って、エディンは席を立った。  王族が人前で涙するところを、見られたくはないだろう。  そんな、武人らしい心配りだった。 「詳しい時刻と処刑の流れは、後ほどお知らせする」 「竜将殿下……!」  思わず伸ばしたアルネの腕は、むなしく空を掻いた。  エディンは真っ直ぐに背を伸ばし、去って行った。

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