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「家族だけじゃない。きっと、友人や恋人を持つ人間も多いはずだ」  エディンと同じ時刻に、アルネはそう考えていた。  彼もまた、処刑される軍人たちの調書に目を通したのだ。 「公開処刑は……あまりにも残酷すぎるよ」  そして、何より。 「あの御方を。竜将殿下を、これ以上血まみれにはしたくない」  アルネは、終戦から10日ほどをエディンと過ごすうちに、彼の優しさを感じ取っていた。  武骨で無口で、素っ気ない男。  だが、毎日かかさず母と兄の様子を見に行くアルネには、必ず同行してくれた。   『心より、お見舞い申し上げます。今朝は、お顔の色が良いですね』 「こんな言葉も、かけてくれたっけ」  穏やかで柔らかな、そしてなぜだか寂し気な笑顔を、見せてくれたっけ。 「僕に、できることはないかな? 何か、僕にできることは……」  腕を組み、うつむき、アルネは考えた。  そして顔を上げ腕を解いた時、ある決意を胸に秘めていた。

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