45 / 372

5

「私は……誰も愛さないし、誰からの愛も期待しない!」  自分に与えられた客間で、エディンは冷たい水を使って顔を洗った。  タオルで拭いもせず、水滴を滴らせたまま鏡を睨んだ。  歯を噛みしめ、自分自身を睨みつける。  それでも、アルネの顔を思い浮かべると、瞼を閉じてしまうのだ。  肩の力が、抜けていくのだ。 「誰も愛さないのではない。誰からの愛も期待しないのでは、ない」  誰も愛さないように、なってしまったのだ。  誰からの愛も期待しないように、なってしまったのだ。 「期待は、必ず裏切りと落胆を呼んでくるから、な……」  複雑な家庭環境に生まれ育ったエディンは、成長するまでに、そんなニヒリズムを心の中に育てていた。 「しかし。アルネ殿下は……良いな」  もう一度。  もう一度だけ、愛を信じてみようか。  エディンを、そんな気持ちにさせる魅力を、アルネは持っていた。  

ともだちにシェアしよう!