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「私は……誰も愛さないし、誰からの愛も期待しない!」
自分に与えられた客間で、エディンは冷たい水を使って顔を洗った。
タオルで拭いもせず、水滴を滴らせたまま鏡を睨んだ。
歯を噛みしめ、自分自身を睨みつける。
それでも、アルネの顔を思い浮かべると、瞼を閉じてしまうのだ。
肩の力が、抜けていくのだ。
「誰も愛さないのではない。誰からの愛も期待しないのでは、ない」
誰も愛さないように、なってしまったのだ。
誰からの愛も期待しないように、なってしまったのだ。
「期待は、必ず裏切りと落胆を呼んでくるから、な……」
複雑な家庭環境に生まれ育ったエディンは、成長するまでに、そんなニヒリズムを心の中に育てていた。
「しかし。アルネ殿下は……良いな」
もう一度。
もう一度だけ、愛を信じてみようか。
エディンを、そんな気持ちにさせる魅力を、アルネは持っていた。
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