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「お待たせしました。コーヒーです」
「いい香りだ。これは、味も期待できそうだな」
マスターとエディンの対話を、アルネは観察するように見ていた。
カップを鼻に近づけて、香りを楽しんだ後、そっと一口いただく。
そんなエディンの所作は、ひどく大人だ。
アルネだけでなく、マスターもまた、エディンを注視していた。
この、ただものではない雰囲気を持つお客様は、私の淹れたコーヒーをどう評価する?
「美味い。豆本来のフルーティーさが、活きている」
「解っていただけますか!?」
「うん。飲み口もスッキリしている。私の好みだ」
「ありがとうございます!」
そこでエディンは、アルネの肩に手を置いた。
「実は、私の連れが、マスターに尋ねたいことがあるんだが」
アルネは、ハッと我に返った。
(そ、そうだった!)
エディンに、つい見蕩れてしまっていた、アルネだ。
気持ちを落ち着けて、もう一度飾り棚に目をやった。
そこには、若き日の母が描かれた、鉛筆デッサンの肖像画があったのだ。
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