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 エディンとアルネがコーヒーとチーズケーキを半分ほど味わった頃、ようやくマスターは語り始めてくれた。  アルネの母・アミエラは、この店の人気者だった、と。 「歌が好きで、踊りが好きで。陽気で明るい、誰にでも好かれる方でした」 「そういえば母上は、よく私に歌を聴かせてくれました」  しかし、とアルネは疑問を口にした。 「あの絵にあるような、華やかな笑顔は、見たことがありません」  母は、あんなに大きく唇を開いて笑うことはない。  いつも静かに、穏やかに微笑むのだ、と。  アルネの言葉にマスターは、少し困ったような顔をした。 「そ、それは。おそらく、宮廷では淑女として振舞われておいでなのでしょう」 「どうして母上は、王室へ招かれたのですか? 父上の元へ、嫁いだのでしょうか」  ためらうマスターの前に、エディンは黙って銀貨を一枚置いた。 「チップだ。それから、もう一杯、お代わりを」 「まだ飲むんですか!?」  アルネは驚いたが、エディンの思惑を察したマスターは、三杯目の準備に取り掛かった。

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