127 / 372
2
仮王であるアルネの兄が、目を輝かせて唱えたその名前。
『フェリックス・エディン・ラヴィゲール』
冷徹勇猛な、異国にまでその名を轟かせる竜将。
「でも、ずいぶん長いお名前ですから、呪文みたいだ、って思ったんです」
そして。
「そして、そのお名前を口にすると、不思議と心が落ち着きました。勇気と希望が、湧きました」
「それは、名誉なことだな。どんな勲章より、嬉しい」
だから僕は、苦しい時や辛い時には、心の中でエディン様のお名前を、呪文のように唱えました。
そう、アルネは語った。
「抜け道の中で将軍に追いつかれ……辱めを受けようとした時も」
エディンは、思い出した。
美しい天使を汚そうとする将軍を、背後から有無を言わさず刺し殺した。
本来なら、後ろからの不意打ちは、武人の心得に反するところだ。
だが、エディンは後先考えずに、アルネを救ったのだ。
ともだちにシェアしよう!

