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あの夜からずっと、エディンはアルネにキスひとつ、くれない。
旅に出てからずっと、頬を寄せてもくれないのだ。
「もしかして、あれは夢だったんじゃないのかな?」
しまいには、そんな風に考えだしてしまった。
宿の主人が腕を振るって出してくれた料理が、どんどん冷めていってしまう。
「アルネ殿下。お口に合いませんか?」
「えっ? あ、ごめんなさい。とっても美味しいですよ!」
内戦後の、物の足りない時に、食料をかき集めて作ってくれた料理だ。
アルネは気を取り直して、食事に集中した。
「煮込みは、何の肉ですか? 柔らかくって、口の中でほどけていきます」
そんな風に質問すると、主人は嬉しそうに説明してくれた。
「これは、サバクオオトカゲの肉ですよ。ちょうど、キャラバンが砂漠から帰ったので」
彼らに頼んで肉を買ったのだ、と彼は得意げに胸を張る。
しかしながら、アルネは心の中で冷や汗をかいていた。
(と、トカゲ……?)
ラクダのコブと言い、トカゲの肉と言い、彼の不安は増し続けた。
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