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 宿内の、アルネのために設けられた部屋には、護衛がついていた。  古びているが、しっかり磨いて光沢を出してある、一枚板のドアだ。  その前に、テミスアーリン軍所属の精鋭が一人、立っていた。 「お疲れ様です。夜中ずっと、ここに?」 「交代要員がおりますので、大丈夫です。アルネ殿下、どうぞ良い夢を」 「ありがとう」  室内に入り、アルネは寝着に着替えながら思った。 「着替えてベッドで眠れるのは、今夜が最後なんだ」  出発前に、エディンに聞いている。  砂漠に出れば、着替えなど二の次。  テントの中で毛布にくるまり、いつ飛び起きてもいいように備えるのだ、と。 「気を引き締めなきゃ!」  決意を固めたアルネの耳に、ドアをノックする音が聞こえた。 「どうぞ?」  先ほどの護衛かな、と思ったアルネだったが、入って来たのはエディンだった。 「昼間は、いろいろとすまなかったな」  アルネに返事の隙を与えず、彼はどんどん近づいてくる。  そして、唇を寄せてキスをした。 「んぁ……ん、ぅん……」  情熱的な、口づけ。  その熱に、アルネは砂漠の陽炎を見ていた。  これから始まる、灼熱の旅を感じていた。

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