206 / 372
第四十二章 帰国
念願の鎮痛薬・モルフェを手に、テミスアーリンへと急ぎ戻ったアルネだが、足を踏み入れた王宮内は様変わりしていた。
回廊を忙しく駆け回っていた医療従事者たちの姿が、無い。
代わりに、着飾った貴族がお喋りなどしながら歩いている。
「これは一体……」
呆然としたアルネに、貴族の一人が気付いて声を掛けてきた。
「おや? アルネ殿下ではございませんか」
「パウロス伯爵。お久しぶりです」
「いやぁ、軍閥のクーデターとは、災難でしたな。幸い私は、国外に知己がありまして」
そこを頼って避難していた、とパウロスは語った。
彼のように、貴族たちのほとんどが、戦災から逃げ出している。
そして今、まるで他人事です、といった顔をして歩いているのだ。
ともだちにシェアしよう!

