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「わぁ。とっても良い香りですね」
「そうだね。味も、いいと思うよ」
ティーカップを手に、アルネは無垢な笑顔だ。
まさかこのお茶が、自分を狂わせるために用意されたものとは、まるで知らない。
香りを楽しんだ後、何の疑いも無く飲んでしまった。
「おっしゃる通り、お味も落ち着いています」
「リラックスできる、深い味わいだ」
白々しく、そんな会話を交わしながら、ハルパロスはアルネの様子を観察していた。
(30分ほどで、効果が現れるというが……)
「どうかなさいましたか?」
「い、いや、何でもないよ。それより、アルネはもう発情したことある?」
ハルパロスの発言は、アルネだけでなく、周りの使用人をもドン引きさせた。
この国では、女性の月経や妊娠と同じくらい、オメガ男性の発情はセンシティブな問題だ。
それを、声も潜めず堂々と訊ねるほど、彼は無神経だった。
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