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 止めるにも止められず、ただ見ているしかない、侍従たち。  ハルパルスの狙いは、そこにあった。 (周りの人間に、この行為を目撃させる。そして、私たちが愛し合っていることの、証人にするのだ!)  ハルパロスの唇が、ぐっと近づいた。  アルネは朦朧としながらも、心の中で唱えていた。 (フェリックス・エディン・ラヴィゲール……)  口づけの相手を、エディンと思い込んでいた。  今にも二人の唇が触れ合うその時、部屋の外が急に騒々しくなった。  どたばたと、入り混じる靴音に混じって、慌ただしい声が聞こえる。 『早く! お急ぎください!』 『アルネ殿下が、大変な事態に!』 『お二人を、お諫めください!』  ハルパロスは、アルネから少し距離を置いた。 「何だ? 誰か来たのか?」  ドアが開かれ、足音と口々に騒ぎ立てる声が、室内にまで押し入った。 「ハルパロス殿下。アルネ殿下から、離れてもらおうか。今すぐにだ!」 「ふぇ、フェリックス……竜将……!?」  アルネを巡る二人の男が、それぞれの思惑を持って対峙した。

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