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第五十六章 つがい

 罪人と成り果てたハルパロスより、アルネの容体の方が、エディンには重要だった。  駆け付けたアルネの専属医師へ、肩越しに掛けた声には、心配の色が濃い。 「アルネの様子は、どうなんだ。少しは、落ち着いたのか?」 「それが……殿下はオメガとして、発情されておいでです。おそらく、媚薬が引き金となったのでしょう」  発情、と聞いて、エディンは気恥ずかしくなった。  冷徹勇猛な武人だからこそ、そういった性的な言葉には弱いのだ。  しかし医師は、冷静に説明を続けた。 「アルネ殿下にとっては、初めての発情です。何とかしてさしあげねば、脳に支障をきたします」  エディンは、どっと冷や汗をかいた。  発情した時、適切な処置をしなかったために、四六時中セックスの相手を求めてさまようことになったオメガの話は、聞いたことがあるのだ。 「何とか、とは!? どうしてあげれば良いのだ!?」  どんな戦況でも慌てないエディンが、生まれて初めて焦っていた。

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