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第七十三章 春風は吹く

 握った兄の冷たい指先は、アルネに一粒の涙を落とさせた。 「兄上は、父上が亡くなった後、ずっと前線で戦って……負傷しても、剣を杖に立ち上がって……」 「それが、王と……いうもの、だよ……」 「兄上!」  アルネは、一粒どころか、いくつもいくつも涙をこぼした。  いくらでも溢れてくる涙をぬぐったのは、やはりエディンだった。 「義兄上は、最善を尽くされたんだ。私に援軍を頼まれたのも、大きな決断だったと思う」  ネイトステフは友好国とはいえ、内政干渉を願うことは、相当の覚悟があられたはず。  そう、エディンは語った。 「フェリックス、殿下……感謝します……」  エディンと兄との間にも、強い絆がある。  アルネは、そう感じた。

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